Scrum Guideは難しい

スクラムガイドの難しさ分析

Scrum Guide」って難しい。『スクラムはシンプルである』て書いてるけど、「スクラムガイド」は難しい。「スクラムガイド2017年度版」にあった『理解が容易、習得は困難』の記述が2020年度版でなくなったんは、もしかして『理解も難しい』ってことに気づいたんやろか。
※わざわざ言うまでもないと思いますが、この記事は、あくまでも私的な解釈であることを念のため断っておきます。

スクラムガイドは難しい

・世の中に「スクラムガイド」の読み方を説明したものはいっぱいある。ネット記事も動画も山のようにある。アジャイルを進める会社もコーチもいろいろいろいろ書いてはる。逆引きみたいなんまで作って分かりやすいようにしてくれてる。


【小学生でもわかるスクラムガイド】https://qiita.com/mossan_hoshi/items/ea2426e24d8c66571469
【Scrum Guide Reordered】https://www.ryuzee.com/contents/blog/images/14578/ScrumGuide-Reordered-
ja.pdf

 けど難しい。みんな難しいと思うからその対策でいろいろ書いてはるんやろけど。なんでなんやろ。
難しいのはスクラムガイドのどこらへんやろか。

どこらへんが難しいのか(その1.スクラムガイドの目的)


・まず「スクラムガイドの目的」。これはええやろ。


:スクラムガイドを時代にあわせて進化させてきたよ。
:スクラムガイドにはスクラムの定義が書かれてて、スクラムのそれぞれのフレームワークにはそれぞれ目的があるから、(定義の内容を)変更とか省略とかしたらスクラムのメリットが活かされないかも
 :スクラムが広がったのでソフトウェア開発以外のいろんな場面でも利用されるようになったのはうれしい。
 :スクラムのフレームワークの中で利用できるものも他にたくさんあると思うけど、それは状況に依存するものやからスクラムガイドの目的には合わへん(から書いてないよ)

・つぎ。「スクラムの定義」。前半は「価値を生み出すための軽量級のフレームワーク」の流れを説明してる。あんまり難しくない。(けどこの段階では説明されていない単語が多数出てくる。)

スクラムとは、複雑な問題に対応する適応型のソリューションを通じて、⼈々、チーム、組織が価値を⽣み出すための軽量級フレームワークである。簡単に⾔えば、スクラムとは次の環境を促進するためにスクラムマスターを必要とするものである。

  1. プロダクトオーナーは、複雑な問題に対応するための作業をプロダクトバックログに並べる。
  2. スクラムチームは、スプリントで選択した作業を価値のインクリメントに変える。
  3. スクラムチームとステークホルダーは、結果を検査して、次のスプリントに向けて調整する。
  4. 繰り返す。

・後半は「スクラムのフレームワークを試してみて。でもフレームワークはスクラムの理論を実現するためのことだけしか書いてないから足らんと思うよ。そこは実践するみんなの知識で必要に応じてプロセスや技術で補ってみて、より有効なように改善してね。」ということかな。ざっくり。

スクラムはシンプルである。まずはそのままの状態で試してほしい。そして、スクラムの哲学、理論、構造が、ゴールを達成し、価値を⽣み出すかどうかを判断してほしい。スクラムフレームワークは意図的に不完全なものであり、スクラムの理論を実現するために必要な部分のみが定義されている。スクラムは実践する⼈たちの集合知で構築されている。スクラムのルールは詳細な指⽰を提供するものではなく、実践者の関係性や相互作⽤をガイドするものである。スクラムフレームワークの中で、さまざまなプロセス、技法、⼿法を使⽤できる。スクラムは既存のプラクティスを包み込む。あるいは、その存在を不要にする。スクラムによって現在のマネジメント、環境、作業技術の相対的な有効性が可視化され、改善が可能になるのである。

どこらへんが難しいのか(その2.スクラムの理論)


・「スクラムガイドの目的」に書かれてる「スクラムの定義」。
その「スクラムの定義」に書かれてる「スクラムの理論」がこの次。このあたりがちょっと怪しい。

スクラムの理論
スクラムは「経験主義」と「リーン思考」に基づいている。経験主義では、知識は経験から⽣まれ、意思決定は観察に基づく。リーン思考では、ムダを省き、本質に集中する。

・ほら。なんか哲学的な感じがする。まず「経験主義」から確認。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/経験論
 :経験論、あるいは経験主義(英: empiricism)とは、「人間の全ての知識は我々の経験に由来する」とする哲学上または心理学上の立場である。<中略>経験論は哲学的唯物論や実証主義と緊密に結びついており、知識の源泉を理性に求めて依拠する理性主義(合理主義)や、認識は直観的に得られるとする直観主義、神秘主義、あるいは超経験的なものについて語ろうとする形而上学と対立する。


・<中略>以降は却って難しくなっているのでちょっと置いといて。「哲学ちゃん」にある経験主義の代表的な偉人ジョン=ロックとデヴィッド・ヒュームにもうちょっと簡単に説明してもらうと。
https://tetsugaku-chan.com/entry/keiken_gouri

 これがスクラムガイドの「知識は経験から生まれ」のことで

こっちが「意思決定は観察に基づく」のとこにあたりそう。

・「リーン思考」はトヨタ生産方式から、あらゆるムダを省くこと。
https://monorevo.jp/basic/tps_and_lean_thinking/

・で「本質」に集中しろ、ってことか。何か言葉の意味が分かると文章も理解できた気になる。
 「知識は経験から生まれ、意思決定は観察に基づく。リーン思考では、ムダを省き、本質に集中する。」

スクラムでは、予測可能性を最適化してリスクを制御するために、イテレーティブ(反復的)でインクリメンタル(漸進的)なアプローチを採⽤している。

スクラムを構成するのは、作業に必要なすべてのスキルや専⾨知識をグループ全体として備える⼈たちである。

また、必要に応じてそうしたスキルを共有または習得できる⼈たちである。

・これは1文目と2、3文目でそれぞれ別々のことを言うてはるよね。
・スクラムでは予測の精度を最適化してリスクをコントロールするために、繰り返しちょっとずつ進める、というのが1文目。精度を上げるんではなくって「最適化」する。スプリントごとのチームのパフォーマンス(ベロシティ)を毎回測っといて、短い期間で繰り返すことで測定値が安定してきたら次のスプリントの大体の目安がつけれるようになる。「このスプリントで何もレビューできんかったー」とかのリスクも低減できる。
・2文目は「スクラムチームですべての知識とスキルが揃っているように」てことやけど「そんなん無理やん」てところを3文目「揃ってなかった場合、共有とかこれから習得できればOK」てフォローしてくれてる?

スクラムでは、検査と適応のための 4 つの正式なイベントを組み合わせている。それらを包含するイベントは「スプリント」と呼ばれる。これらのイベントが機能するのは、経験主義のスクラムの三本柱「透明性」「検査」「適応」を実現しているからである。

・この辺からは事前に先を読んだうえでの解釈になるけど、
 スクラムは「スプリント」の中に「スプリントプランニング」「デイリースクラム」「スプリントレビュー」「レトロスペクティブ」って4つのイベントを設定してるけど、スクラムの三本柱「透明性」「検査」「適応」ができてへんとイベントはうまいこと機能せぇへんよ、て言うてはるんやけど、この段階ではまだ「透明性」「検査」「適応」は説明されてない。この後に説明がある。

どこらへんが難しいのか(その3.スクラムの理論―三本柱―)

透明性
創発的なプロセスや作業は、作業を実⾏する⼈とその作業を受け取る⼈に⾒える必要がある。スクラムにおける重要な意思決定は、3 つの正式な作成物を認知する状態に基づいている。透明性の低い作成物は、価値を低下させ、リスクを⾼める意思決定につながる可能性がある。透明性によって検査が可能になる。透明性のない検査は、誤解を招き、ムダなものである。

・何?創発って何?スクラムガイドで初めて出会った言葉。
https://ja.wikipedia.org/wiki/創発

創発(そうはつ、英語:emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。


・まだ難しい。ぐぐると「創発的戦略」って言葉がいっぱい引っ掛かってくるけど。
https://frontier-eyes.online/emergent-strategy/

「創発的戦略」とは、意図した計画を実行する中で発生した予期せぬ問題や状況に適応する中で形成される戦略のことです。


・なるほど。
計画を実行する中で問題や変化に対応するようなプロセスとか作業は、みんなに見えるように透明性を確保しとかなあかん。何でかって言うと、意思決定の根拠となるスクラムの3つの作成物プロダクトバックログスプリントバックログ、インクリメント)に透明性がなかったら、判断する人は正しく判断でけへんし、作業する人も正しく作業でけへんやろ。(この段階で3つの作成物はまだ説明されていない。)

透明性が確保された作成物やから検査する意味があんねん。


・さっき経験主義のとこにあった「意志決定は観察に基づく」の観察ができるように、透明性を確保しましょう、てことやな。


・そうか。スクラムガイドが難しい理由がちょっと分かった気がする。普段聞き慣れてない単語がちょこちょこ出てくるのはまだしも、文章の接続語がめちゃめちゃ少ないんちゃうかな。「そのため」とか「したがって」とか「ほんで」とか「せやから」とかがないから、前の文章を説明してんのか別のことを言うてんのかを判断しにくい気がする。個人的に。

検査
スクラムの作成物と合意されたゴールに向けた進捗状況は、頻繁かつ熱⼼に検査されなければならない。これは、潜在的に望ましくない変化や問題を検知するためである。スクラムでは、検査を⽀援するために、5 つのイベントでリズムを提供している。検査によって適応が可能になる。適応のない検査は意味がないとされる。スクラムのイベントは、変化を引き起こすように設計されている。

スクラムの作成物プロダクトバックログスプリントバックログ、インクリメント)と(スクラムチームで)合意したゴールに向けた進捗状況は、しょっちゅうキッチリ検査せなあかん。何でかって言うと、知らん間に発生してる、望ましくない変化や問題をチェックするため。 スクラムは検査しやすいように5つのイベント(スプリント、スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビューレトロスペクティブを設定してる(この段階で5つのイベントはまだ説明されていない)。 適応するから検査する意味があんねん。あと、スクラムのイベントは変化を引き起こすようになってる(から、しょっちゅう検査して変化に適応するが重要なんですよ)。


・スクラムガイドの難しい理由のもうひとつは、説明されていない言葉が最初からばんばん出てきて、後から個別に説明する、というスタイルのせいもあるかも。これはきっと「数回読んだくらいでは分からへんで」というメッセージに違いない。知らんけど。

適応
プロセスのいずれかの側⾯が許容範囲を逸脱していたり、成果となるプロダクトが受け⼊れられなかったりしたときは、適⽤しているプロセスや製造している構成要素を調整する必要がある。それ以上の逸脱を最⼩限に抑えるため、できるだけ早く調整しなければならない。関係者に権限が与えられていないときや、⾃⼰管理されていないときは、適応が難しくなる。スクラムチームは検査によって新しいことを学んだ瞬間に適応することが期待されている。

・ここは文章の意味で難しいところもないし、ここまでに説明されてない言葉もないからそのままかな。
スクラムのプロセスのどこかでルールや許容範囲を超えてたり、プロダクトが受け入れられなかった場合、そのプロセスや構成要素に問題があるので、正しい軌道に戻すために早く調整(検査、適応)せなあかん。でもスクラムチームの権限だけで変更できんかったり、自己管理できてへん場合には適応が難しいよ。権限移譲され、自己管理できてるチームは、検査で新しいことを学んだ瞬間に適応することが期待されてる。

どこらへんが難しいのか(その4.スクラムの価値基準)

スクラムの価値基準
スクラムが成功するかどうかは、次の 5 つの価値基準を実践できるかどうかにかかっている。


確約(Commitment)、集中(Focus)、公開(Openness)、尊敬(Respect)、勇気(Courage)


スクラムチームは、ゴールを達成し、お互いにサポートすることを確約する。スクラムチームは、ゴールに向けて可能な限り進捗できるように、スプリントの作業に集中する。スクラムチームとステークホルダーは、作業や課題を公開する。スクラムチームのメンバーは、お互いに能⼒のある独⽴した個⼈として尊敬し、⼀緒に働く⼈たちからも同じように尊敬される。スクラムチームのメンバーは、正しいことをする勇気や困難な問題に取り組む勇気を持つ。

・まず「スクラムが成功するかどうかは5つの価値基準を実践できるかどうか」というところ。
 三本柱の説明の前に「スクラムのイベントが機能するのは三本柱(透明性、検査、適応)を実現してるから」て書いてたし、冒頭のスクラムの目的では「各要素のルールを守ろうね」って書いてる。


(冒頭のスクラムの目的)

スクラムガイドにはスクラムの定義が含まれている。フレームワークの各要素には特定の⽬的があり、スクラムで実現される全体的な価値や結果に⽋かせないものとなっている。スクラムの核となるデザインやアイデアを変更したり、要素を省略したり、スクラムのルールに従わなかったりすると、問題が隠蔽され、スクラムの利点が制限される。場合によっては、スクラムが役に⽴たなくなることさえある。

・つまり「スクラムを機能させるにはルールを守って三本柱を実現しましょう。スクラムを成功させるには5つの価値基準を実践しましょう。」ということだと思う。


・書いてることを理解するのは難しくないけど「スクラムの価値基準」と言うてる以上、スクラム全体に掛かってくる話やろうし、実践するのはかなり難しいことやと思う。ちょっと拡大解釈かもしれへんけど、精神論ぽくなるところなので敢えて対象を明確化してみると。


確約:ゴール(プロダクトゴール、スプリントゴール)の達成、(スクラムのメンバーの)相互サポートを確約する。 常に透明性を保ち検査、適応を行うこと、完成の定義、自己管理(誰が、どのように、何の作業をするか選択)することなど、様々なことを確約する。


集中:ゴール(プロダクトゴール、スプリントゴール)の達成に向けて、スプリントの作業に集中する。スプリントの作業は、将来重要になるかもしれないことよりも現在分かっている重要なことに集中する。


公開:スクラムチームとステークホルダーは作業や課題を公開する。スクラムチームはチームの状態や進捗、課題をチーム内外に公開し、ステークホルダーはチームやプロダクトに関連する様々な情報を公開する。


尊敬:スクラムチームのメンバーはお互いに能力ある独立した個人として尊敬し、尊敬される。 関連するメンバーのスキル、知識、価値観、多様性、異なる意見、スクラムでのロールなどを相互に尊重する。


勇気:正しいことをする勇気、困難な問題に取り組む勇気を持つ。 変化を受け入れ、チームにとっての問題を包み隠さず共有し、従来通りの安定性よりもチームの成長に繋がる選択をする勇気を持つ。

【まとめ】スクラムガイドのここらへんが難しい


・うん。どこが難しいのか、何となく分かったような気がしてきた。スクラムガイドも難しくないところは難しくない。当たり前やけど。 スクラム用語以外の聞き慣れない単語がたまに出てくること、接続語が少ないこと、スクラム用語を理解して読み下さないと分かりにくいというのが「理解も難しい」と思わせるポイントなのかも(もちろん個人的に)。 スクラムガイドのこの先は、ここまでの記載にもあったフレームワークの個別説明なので、実践は難しいけど理解するのも難しい、ってとこはない気がするので省略。
・スクラムガイドの価値基準までの内容を、イメージ化してみたら意外とチームのメンバーに好評だったので、調子に乗ってコピーライトまで付けてみた。分かりやすいかどうかは別にして。