仮説検証力を上げよう!

 所長のタケヒトです。この記事はInsurtechラボ202306アドベントカレンダーの15日目の記事で書いています。

 ちょっと前にスクラムチームから今はモノ作りのフェーズで「仮説検証」はあまり関係ないといった発言があり、そんなことはないといったディスカッションをしました。今回は、私が現時点で「仮説検証」について思っている事を書きたいと思います。(あくまでも現時点の個人の意見です)

狭義の仮説検証について

 下記はラボの戦略のイメージ図です。左から2番目の所に「仮説検証(リーンスタートアップ)」と書いています。プロダクト開発ではPM-FITするまではまずは仮説検証をしっかりやるべしというのが定説になっていますが、ここでいう『仮説検証』が狭義の仮説検証活動になります。

 スクラムチームが自分たちに現在あまり関係ないと言ったのはこのイメージを持っていたからだと考えています。仮説検証でググると『リーンスタートアップ=仮説検証』として説明している記事が上位の方でちらほら出てきますので、ビジネスの世界で仮説検証というとこの狭義の仮説検証を表すことが多い気がしています。

広義の仮説検証について

 ただし、一般的な「仮説検証」と呼ばれている概念はもう少し広義となります。グロービス大学院のMBA用語集では、

仮説検証とは、仮説の真偽を、事実情報に基づいた実験や観察などを通じて確かめること。

グロービス大学院 MBA用語集

と書かれており、「1状況の観察分析」「2仮説の設定」「3仮説の検証」の3段階により立てた仮説が合っているかを検証し、合っていなかったら仮説を修正することが仮説検証であると、広い意味合いでの記載になっています。

 もともとは学術や調査の文脈での用語となります。エジソンは「失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」と言ったそうですが、まさにそのメンタルが仮説検証のメンタルと近いと思います。

 ただし、ここまで仮説検証の範囲を広げてしまうと広すぎて、やはり自分達にはあまり関係ないと思われる気もします。(上記スクラムチームとのディスカッションの際に仮説検証は普段からも重要なんだと力説しましたがイマイチ伝わらなかったが、この広義の仮説検証の範囲が広すぎたからだと感じました)

中間の?仮説検証について

 そこであえて、「中間の仮説検証」という枠を作ってみました。

 狭義の仮説検証はリーンスタートアップの考え方。広義の仮説検証は仮説の明確さ、実験のしやすさを重視して、検証していくやり方だと定義すると、ここでいう中間の仮説検証は、『ビジネス実施における学びを最大化するために、探索適応活動を行うもの』と定義してみました。この定義は、下記スクラムガイドのスクラム定義と近いと考えています。

スクラムとは、複雑な問題に対応する適応型のソリューションを通じて、⼈々、チーム、組織が価値を⽣み出すための軽量級フレームワークである

スクラムガイド2020

 そう。スクラム自体が『探索と適応』を重視しており、仮説検証型の行動フレームワークと言えると考えています。私が伝えたかった『仮説検証』はスクラムを回す上でも必須であるビジネスを行う上では向き合い続けないといけない概念だと考えています。

 例えば『スプリントゴール』。スプリントゴールを立てる、立てないでスプリントの質が変わってくるのはスクラム経験者ならわかると思います。またスプリントゴールの質も重要で、「PBI○○を終わらす」といった記載のゴールだと大した成果が出ないという事も感覚で分かると思います。

 このゴール自体も一種の仮説なので、そのゴールに向かって検証してみて、どう適応するかというスプリント活動自体も「仮説検証活動」の一種と言えます。

 仮説であるスプリントゴールの設定のレベルやスプリントレビュー等での検証の品質のレベルがスクラム全体の品質に影響が大きいという事は経験者ならわかると思います。

スクラムの仮説検証活動で学びを最大化する方法

 それでは、スクラムの仮説検証活動で学びを最大化するためにはどうすれば良いのでしょうか?仮説検証の軸から考えると学びを最大化するためには下記4点がポイントだと考えています。

ポイント1.仮説(スプリントゴール)のクオリティを上げる

・仮説検証の軸で良いスプリントゴールを設定するためには

1.現状(今のプロダクトの状態やチームの状態)をしっかり観察すること。前のスプリントレビューのフィードバックをしっかり受け止める事 ※現状が分からないと仮説は立てづらい

2.今後の方向性、現在環境、時間軸と言った要素を踏まえ、スプリントゴールの先の向かうべき方向・距離感が見えている事

※スプリントゴールを達成することで次回のスプリントゴール設定に対してまた新たなゴールを設定できる

3.ゴール(仮説)について具体的に評価・検証できる形になっていること

が重要です。現状に対して正しく認識していないとゴールは立てられない為、1は特に重要になります。ただし一人で見ている現状とチームで見ている現状、ステークホルダーが見ている現状、ユーザーが見ている現状はすべて異なりますし、全て大事な要素になります。そのような複数のゴールに対して整合性を意識しながら、理解するメタ認知力が問われます。

 また、前述した「PBI○○を終わらす」といったゴールは2が意識出来ていない典型的なゴール設定になります。2が意識出来ていないとそのゴールをクリアして何が嬉しいのか?が判断できず、進んでいるのかの判断がベロシティだけになり、辛い展開が待っています。最後に、3ができないと1回1回のスプリントでの検査が出来ません。

 こういった1と2と3の間でも整合性を取りながらゴール(仮説)を設定することが必要となります。

ポイント2.検証(検査)のクオリティを上げる

 検証のクオリティとしては、検査をしっかり行う事(スプリントレビュー)と早く行う事(ターンアラウンドの短縮)が重要だと考えています。

 検査をしっかり行う為には、ポイント1でも書いたゴール設定とゴールに対して距離どう縮まったのかとういうFrom-Toの評価が必要です。

 また学びを最大化すると言った観点だと、「仮説の通りである事が検証出来てそれ以外は学びがなかった」という内容であればあまり意味がなくなります。『想定したゴールに対してどうだったか?』という事と『新たなゴールを設定するための気づきはないか?』という2つの視点が必要での検査が必要となります。『仮説の検証という適応活動』と『別の視点で、他の仮説はないか?という探索活動』を同時に検査していき、その一番のイベントがスプリントレビューだと思います。スプリントレビューにステークホルダーが必須と言われるのはこの事からです。

 上記についてはかなり難易度が高いですが、タイムボックスという概念がそのサポートしていると考えています。

 スプリント期間といったタイムボックスやデイリースクラムから翌日デイリースクラムまでのタイムボックス、それぞれのスクラムイベント毎のタイムボックス等色々な時間軸のタイムボックスを設定しており、その中でこの探索活動と適応活動を実施するように構成されています。チームメンバーの複数の視点で今は探索の時間なのか?適応の時間なのか?と割合を変えながら、仮説検証活動を繰り返しているのです。このように探索と適用のターンアラウンドを意識的に短くすることで検証のクオリティが高まっていきます。

ポイント3.仮説の再設定のクオリティを上げる

 3つ目のポイントは、新たな仮説(ゴール)の再設定になります。スクラムではスプリントゴールやプロダクトゴール。またチームとしてのゴール等があると思いますが、そのゴールを適宜設定し続けることも重要となります。

 これは、再設定すること自体を意識的に行わないと難しいと考えています。上記探索と適応と話をしましたが、通常のビジネス活動をしているとどうしても適応メインになってきます。(それが冒頭でのスクラムチームからの仮説検証あまり関係ないんじゃないか発言とも結びつくと考えています)

 そのため良いゴールを強制的にでも考えて設定することが必要で、それがスプリントゴール設定や定期的なむきなおり(インセプションデッキの見直し)となります。こういったスプリントゴール設定やインセプションデッキ見直し活動をしても新たな魅力的なゴールが生まれないのであれば、探索的な活動が不十分であると思いますので、意識的にINPUTを増やして探索のネタを集めるような活動をした方が良いと考えています。

ポイント4.学びを目的にする量とアウトプットを出す量を調整する

 最後に「仮説検証活動は学びを最大化すること」と言いましたが、ビジネスを進める上では、学びは何らかのアウトプットになり、アウトカムを得ないといけません。学びの話を中心にしましたが、逆にアウトプットに注力するタイミングも必要と考えています。このバランスが取れず学んでいるだけだと学びのための学びになってしまい、結局「学びの最大化」に繋がりません。早口言葉みたいになってきましたが、こういったアウトプットにこだわる割合も意識して調整することが良い学びに繋がると考えています。(下記MVPとMKPの話が分かりやすいと思います)

仮説検証力を上げるTips

 上記、スクラム活動のなかでの仮説検証力を上げると言った話ですが、上記を意識しながら進めることでスクラム活動の中でもチームメンバーで仮説検証力を上げることが出来ると思っています。

 ただ、正直、一番手っ取り早く「仮説検証力を上げる」方法は、狭義の仮説検証(リーンスタートアップ)の手順をしっかり、経験することが良いと思っています。私自身仮説検証が重要という事はずっと前から考えてはいたものの、練習の仕方が分からず、全然成長できませんでしたが、リーンスタートアップの仮説検証活動の中で仮説キャンバス、検証スクリプトなどを作成しプロダクトやユーザーに向かい合うようになってから、だいぶ見える景色が変わったと感じています。

 価値ある仮設の探索やFrom-Toとの整合、また論理だけでなく想いの重要性みたいな「仮説検証活動」での重要なケイパビリティはリーンスタートアップの活動に向き合う中で一定醸成されると感じています。

 そういった活動の中で、上記のスクラムの活動自体も仮説検証をより意識する必要があると気付き、スプリントプランニングスプリントレビューでは意識的にそういう意図の指摘をしています。

リーンスタートアップって何?

感想

 今回の記事では、仮説検証活動とスプリントを比較しながらポイントを記載しましたが、この事は、もっと細かい活動や組織構築といった活動の中でも重要と考えており、これからのビジネスでより重要なスキルになってくると感じています。

 ラボでももっとプロダクトのディスカバリー活動をしっかり取り組んで仮説検証力をもっと上げたいと考えています。

読んでいただきありがとうございました。