Insurtechラボでもリーンスタートアップの概念は重要な位置づけとしています。
下記コラムではリーンスタートアップについて説明します。
図:InsurtechLabが目指す方向性(仮説検証としてリーンスタートアップを重要な概念としている)
1.リーンスタートアップとは?
リーンスタートアップは、コストをかけずに短期間で最低限の機能を持った試作品を作り、顧客の反応から頻繁にフィードバックを得ながら、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していく「ムダ」を省くことを主眼においたマネジメント手法のことです。1979年生まれのアメリカのアントレプレナー、エリック・リースにより提唱されました。「ムダがない」という意味の「リーン」と「スタートアップ」を足し合わせた用語です。プロジェクト失敗リスクを最小限に抑えられるのが、リーンスタートアップの特徴と言えるでしょう。
表:リーンスタートアップでポイントとしている内容(リーンスタートアップの内容を要約)
2.リーンスタートアップの手法
リーン・スタートアップでは、1.仮説構築→2.計測・実験→3.学習→4.再構築までの4つの過程を繰り返し、PDCAサイクルによく似ているプロセスとなっています。
2-1.仮説構築
まずは仮説を立てます。ビジネスアイディアをもとに顧客にインタビューやアンケートを行い、「顧客のニーズに合わせて、どのようなサービスがよいか」について仮説立てを行いましょう。その後、仮説検証のために、MVP‐Minimum Viable Productと呼ばれる実用可能な最小限の製品を開発し、顧客に試してもらいます。アイデアのままでは成功するか否かは、わかりません。そのため、アイデアをビジネスとして成立させるための仮説を検証することが重要となります。要となる仮説(Leap-Of-Faith Assumptions)をいかに見つけるかが重要です。
2-2.計測・実験
続いて、作成された製品やサービスの試作品(MVP)が、どのような反応を引き起こすかを見極めます。開発されたMVPを、流行に敏感な人々(アーリーアダプター)に提供して、実際に製品やサービスを使ってもらい、ユーザーインタビューを行い生の声を収集し、反応を見ます。製品に対しては、様々な要望を盛り込みたくなりますが、あくまでこの段階は計測が中心です。機能を最小限にした試作品で試すことが重要です。仮説と違った結果でも、最後まで続けます。「リーンスタートアップ」の本でも科学者のように考えることが重要だと記載されています。
2-3.学習
計測の結果をもとに、MVPを改善させていくことを「学習(Learn)」と呼びます。ユーザーの反応から、「変えるべきこと」「変えてはいけないこと」などを見極めます。製品は現在の市場で有効であるか、サービスは顧客の悩みに対するソリューションとなっているか、等最初に立てた仮説に誤りがないか確認していく作業となります。計測が失敗しても、学習を積むことで経験を次に活かしていきます。このループを早くたくさん回せるかがポイントとなります。
2-4.意思決定/再構築
測定、学習の流れで得た学びをもとにして、顧客が本当に欲しいと思っているサービス・製品を作っていきます。どうしてもうまくいかない場合は、構築に戻ります。この方向転換はバスケットボールになぞらえて「ピボット」と呼ばれています。ピボットは一見遠回りのようにも感じられますが、試行錯誤型の経営戦略に関しては、成功確率を高める効果があると言われています。ピボットをきちんと定義しているのが、リーンスタートアップの特徴です。
3.顧客開発モデルとは
リーンスタートアップが抱えている大きなリスクが、「顧客に必要とされないものを作ってしまうこと」です。「顧客に耳を傾けること」と「顧客の声を鵜呑みにして進めること」は全く違います。そのような問題を解決するためにSteveBlank氏によって提唱されたのが、顧客開発モデルです。
3-1.顧客発見(Customer Discovery)
・「顧客と話をし、ニーズがあるかどうか」の検証を行うフェーズ。ターゲットと仮定した顧客が本当にサービスを必要としているかどうかを十分に検証し、ターゲットの顧客像はどんな人物であるのかといった、ペルソナを深掘っていきます。(ペルソナについては下記記事をご確認ください)
3-2.顧客実証(Customer Validation)
・「実際に市場に受け入れられるのか」を検証するフェーズです。製品やサービスが実際に顧客に購入されるか?ビジネスとして芽があるかを実証していきます。
3-3.顧客開拓(Customer Creation)
・「グロース」として拡大が可能かを検証するフェーズです。顧客実証が確認できたサービスをビジネスとして成功させるために、どのようなビジネスモデルがふさわしいか考えます。プロセスや顧客へのアプローチを考え、どのような組織が必要かの具体戦略を考えます。
3-4.組織構築(Company Building)
・組織を構築して、生産体制を整えるフェーズです。サービスを事業として運営するための組織を構築します。
4.リーンスタートアップとMVP
仮説検証を行わずに、見切り発車的にローンチしても顧客のニーズと合わず、無駄なコストだけ掛かってしまうケースがよく発生しています。それを解消するのがMVPです。MVPとは「顧客に価値提供できる最小限の機能を持った試作品」という意味です。アイデアが市場に受け入れられるかどうかを事前に判断することは不可能なため、実際に試作品を製作してみて、顧客に使ってもらうことで実際の反応を確認するのです。MVPの作成で大切なのは、どんな仮説を設定するかといった学びの材料としてMVPを考えることです。MVPには、「オズの魔法使い」「コンシェルジュ」「カスタマーリサーチ」「プロトタイプ」などいくつかの手法が存在します。加えて、MVPはアーリーアダプター向きに構築することが重要です。
5.リーンスタートアップおよびMVPのメリット
リーンスタートアップ及びMVPについては、下記3点のメリットがあげられます。
5-1.早く顧客の声を聞くことができる
・アップデートのたびにフィードバックを得られるため、顧客の声を聞きながら、好ましい形で製品を市場投入できます。加えて必要最低限の機能しか作らないため、顧客の反応がシンプルとなり、改善ポイントが明確になります。フィードバックループを繰り返すことで、顧客にとって本当に必要なものを提供できるようになり、顧客満足度も向上して、自社に対する信頼度もあがります。
5-2.コストや時間がかからない
・製品を完璧に完成させてから改善していくやり方に比べ、必要最低限の機能のみで検証するリーン・スタートアップは時間・コストが節約できます。顧客のリアクションがいまいちだった場合、複雑な製品の場合、何が原因なのか特定しづらくなってしいます。MVPは、シンプルなだけに、顧客の声による改善点が特定しやすいため、製品・サービスのリリースを早期化することができるのです。失敗をした時も、無駄にコストをかけないため、ダメージも少なくなります。
5-3.市場でいち早く優位に立てる
スタートアップは「市場に出回っていない新しいサービス・製品」を提供する必要があります。そのため、開発段階に完璧を求めないリーン・スタートアップは、競合他社にスピードで優位を保ちやすくなります。MVPの戦略によって、早期にリリースし、フィードバックループををすばやく回すことで、市場においていち早く、先行利益を得て、競合他社より優位に立てるのです。
6.リーンスタートアップおよびMVPのデメリット・注意点
リーンスタートアップおよびMVPについては下記4点のデメリットや注意点もあるため、気を付けましょう。
6-1.アイデアを考える手法ではない
・よくある勘違いとして「リーンスタートアップを採用するとイノベーションを起こすことができる」といったようなものがあります。しかし、「リーンスタートアップ」はあくまでも、マネジメントの方法論の1つであり、新たなアイデアを生み出せるような手段ではありません。すでにアイデアが存在する場合にそれを活用していくものなのです。「0→1」にするようなフェーズは「デザイン思考」が得意としているフェーズであり、リーンスタートアップが対応するゾーンではありません。デザイン思考やアート思考等で生み出された「0→1」を「1→10」「10→100」へと大きくしていくマネジメント方法が「リーンスタートアップ」なのです。
6-2.とりあえずやってみようといった手法ではない
・リーンスタートアップでは、MVPを活用し、スピード感高く、とにかく前進していくイメージが強いです。ただし、リーンスタートアップは、「無計画でも、とりあえずやってみよう」という行き当たりばったりの考え方ではありません。スタートアップのように情熱的であるが混沌としているような組織について管理する新しい方法論であり、新規事業開発を行う為の、仮説検証型のマネジメント手法です。
とりあえず製品をリリースして様子を見ようという方針で進むと、このような問題に悩まされがちだ。私はこの方針を「やってみよう」型企業と呼ぶ。この方針に従うと様子を見ることには必ず成功するが、検証による学びが得られるとは限らない。失敗がなければ学びもないーこれは科学的手法の教える所なのだ
リーンスタートアップより
6-3.SNSによって顧客離れが早くなっている
・TwitterやInstagramなどのSNSはここ数年でユーザーを急激に増やしています。そんな中、SNSの投稿で評判が拡散し、学習の機会すら与えられず、炎上し企業の価値が下がってしまうようなケースも発生しています。そのため、仮説検証を繰り返すリーンスタートアップが時代に合っていないのではという批判的な意見もあります。また頻繁にピボットを繰り返すと顧客から「地に足がついていない会社・サービスだ」という意見も出てしまう懸念もあります。
6-4.試すうちに目的がずれてしまうことがある
・リーンスタートアップを進めるうちに、何のために行っているのか目的がわからなくなってしまうこともあります。MVPを繰り返し作成していく中で、当初の「ユーザーのニーズを満足させる」という目的から外れて、MVP作成を行うこと自体が目的と化してしまう恐れもあります。仮説検証型で進めるためには学習を最大化させるような仮説を設定すること。またサービス・組織としてのぶれないビジョンの設定が重要です。ゴールデンサークル等を作る中で、関係者でしっかりビジョンを共有しましょう。
7.まとめ
どうだったでしょうか?「MVPは聞いたことあるけどよくわからない」「本は読んだがよくわからなかった」といった印象が、少しでも前向きに変化すれば幸いです。インシュアテックラボでは、仮説検証型でのビジネス創出について、今後も取り組んでいきたいと思います。
読んでいただきありがとうございました。