初めての方でも簡単に理解できるカスタマージャーニーマップ

保険業界においてもユーザー視点での検討は重要であり、「カスタマージャーニーマップ」を作成することが増えてきました。Insurtechラボでもよく作成していますので、カスタマージャーニーマップとはどんなものなのか、作り方のポイントについて解説します。

1.カスタマージャーニーマップとは

カスタマージャーニーマップとは、顧客が企業・商品・サービスのことを認知し、購入し、そして最終的に継続顧客となってもらうまでの一連のプロセスを「旅」に見立てて一枚の絵にまとめたものです。想定したユーザー(ペルソナ)がどのタッチポイントでどういったコミュニケーションを取るのかプロセスを言語化し、ストーリーとして可視化することによって、見込み顧客の「知りたい」「興味がある」といった心理状態を把握します。この手法を用いると、ユーザーに対して、どんな態度変容を促したいのかを整理することができ、適切なタイミングに適切な方法でコミュニケーションを行うことが可能になります。最終的に顧客のカスタマージャーニーを変化させることができます。1998年にイギリスのOxfordSMによって導入された手法と言われています。

2.カスタマージャーニーマップが必要な理由

主要なメディアがテレビ、新聞であった数十年前はタッチポイントは分かりやすく、マーケティングについても主要ケースを抑えるだけで十分でした。しかし昨今では、SNSや比較サイト、口コミサイトなどの発達により、商品・サービスや企業そのものに関する消費者の評価・評判は、瞬時に拡散されていきます。また、行動自体も即時的に行うようになっています。

このように、顧客行動プロセスを把握する際に、「離脱した」、「リンクが押された」などの目に見えるリアクションだけを追っていたのでは、その実態に迫ることは難しくなってきています。同じ商品・サービスであっても、顧客自身がおかれている環境(購入・利用の目的やシーン)によって異なり、そのアクションの前後にもさまざまな思考や感情、課題を持っていて、しかもその背景は複雑だからです。

またマーケティングオートメーションツールやアドテクノロジーの進化により、チャネルを横断してユーザーに対して、マーケティング施策を打つようになり、ますますこういった個に沿ったマーケティングは重視されています。その中で、顧客行動プロセスを把握し、どのタイミングで、どのような情報を顧客に提供するべきなのかなどを正確に把握するのに有効なのが、カスタマージャーニーマップとなります。

3.カスタマージャーニーマップの構成


カスタマージャーニーの横軸には時系列として、製品・サービスとの出会いから購入・契約、そして継続的な顧客化するまでの「フェーズ」が設定されます。フェーズのヒントとしては、主にリアルでの顧客行動を定義したAIDMAやWebでの顧客行動を定義したAISASなどのフレームがありますが、そのまま使わず、自分たちでフェーズを定義しても構いません。サービスに合った軸を設定しましょう。また、縦軸はユーザーの「思考・行動」「タッチポイント」「感情(ペイン・ゲイン)」などがレイアウトされますが自由にカスタマイズ可能です。

AIDMAのイメージ図


AISASのイメージ図

4.カスタマージャーニーマップの作り方


・カスタマージャーニーに関しては下記7STEPで作成します。

4-1.目的(ゴール)を設定する

まずジャーニーマップのゴールを定義します。保険であれば、「認知・購入から始めて解約させずに保険の支払までサポートする」といったゴールを設定すると、少なくとも数年単位のジャーニーが必要ですが、「認知からキャンペーンで仮申し込みする」といったゴールの場合、数時間・数日とったジャーニーになります。他にも、「売上を上げる」「顧客を理解する」「既存サービスの問題を探す」等目指すべきゴールでジャーニーは全く異なります。最初に何を目指してジャーニーを作るのかの『問い』をしっかり定義しましょう。

また、カスタマージャーには作成よりもプロセスが重要と言われるくらいチームで議論して共有することが重要と言われています。どのメンバーで検討するか?何を学びたいか?という点も意識して進めることが重要です。

4-2.ペルソナを明確にする

次に対象にするペルソナを明確にします。ペルソナの具体的な作り方は下記記事で解説しているので、ぜひご覧ください。

ペルソナがどのような課題を抱えていて、商品やサービスの利用を経てどう変容させていのかを、明確にします。自社でどういったユーザーを狙っていきたいのか、その市場規模や動向などを、可能な限り把握しておくことが重要です。

ペルソナを作成する場合は無料・自動でペルソナ作成ができる「ペルソナ君」を参考にすると簡単に作ることができます。

4-3.カスタマージャーニーマップのフレームを設定する

「3.カスタマージャーニーの構成」で説明した通り、目的や事業の内容などに応じて、情報を収集し、マッピングしていくフレームを決定します。顧客の思考・行動・感情をマッピングしていきますが、会社・部署・役職を横断したメンバーを集めることで、多様な視点が議論ができると、カスタマージャーニーマップの作成はクリエイティブで楽しいものになります。ワークショップ形式で作成するのもおすすめです。

4-4.行動の洗い出し・行動の仮説立て

ペルソナがどのように考え、行動するのかを理解・想定するために、顧客の情報を集めます。顧客はどういった感情を抱きながら、どのように行動し、どんなタッチポイントに触れているでしょうか。ユーザーインタビューしたり、オンラインやオフライン問わずデータ分析などの定量調査、ユーザーテストなどの定性調査の結果双方から、顧客の情報を収集できるとよいです。また、デジタル化の進展とともに、ユーザー情報のデータは量・質ともに増えています。そういった情報も活用しながら進めて行きましょう。

そして、集めた情報から得られた行動パターンを分類分けし、そこから予測できる行動を可視化していきます。情報が少ない場合もどのようなペルソナか?ということを意識しペルソナになりきって検討することが大切です。まずは付箋などを使ってみんなでブレストしながら、思いつくままに貼り付けていきましょう。そして、それらを顧客接点やフェーズごとに時系列に整理していきます。

4-5.感情・思考・意識の洗い出し

次に、それぞれのフェーズごとに顧客の感情や思考を洗い出していきます。感情(嬉しい・悲しいなど行動に伴って発生する心の動き)と思考(「進める」「迷う」「疑問に思う」といった顧客の考えていること)に分けて、捉えていきます。

その際には、売り手の理想ではなくなるべく、客観的な目線(ペルソナの目線)で意見することが重要です。とはいえ、一人の意見ではどうしても偏りが出るため、同僚や知人などにヒアリングするなど、顧客がどのような思考のもとに行動しているのか、その際、いったいどのような感情を抱いているのか、具体的に想像できるような情報を集めます。

4-6.カスタマージャーニーからストーリを抽出する

一通り、マッピングし終えたら、情報を整理しグルーピングしていきます。思考、行動、感情の一連のストーリーを浮き上がらせていくのです。感情についてはマイナスの思考(ペインポイント)とプラスの思考(ゲインポイント)を洗い出します。ストーリーには盛り上がりがあり、終わりがあるように、ストーリー形成とイラスト等、可視化を心掛けます。何がストーリーに含まれて、何が含まれないのかを決定していきます。特に態度変容が起きたきっかけやボトルネック、その時のユーザーの感情や考えをストーリーとして浮きだたせることができると理想です。ストーリーテリングの技法を使うことで、情報価値を設計することができます。

4-7.KPIや解決策の設定

これまでのプロセスをふまえ、現状の課題と、それに対する解決案を探ります。ペルソナの行動や感情と、マーケティングがマッチしていないフェーズを明確にしていきます。この過程で、フェーズをさらに分割したり、足りないフェーズを追加するなど、前のプロセスに戻ることもあります。熟考した結果、施策や改善策が決まったら、それぞれの項目に対してKPIを設けておきます。例えば、「資料請求」をクリックした回数、離脱率等、目標達成度が明確になる数値を設定します。

5.カスタマージャーニーのメリット


5-1.顧客を深く理解できる

「顧客視点」の重要性は、認識していても、どうしても日常のビジネスのなかでは売り手目線で物ごとを考えがちです。また、Webサイトの行動ログやアンケート調査などで顧客の行動を理解したつもりになっていても、断片的であり、顧客の全体としての動きは把握するのは難しいものです。カスタマージャーニーでは、特定のペルソナの思考・行動・感情に絞って整理するため、顧客全体を対象とする場合に比べて、シンプルで、具体的な施策が検討できる点がメリットです。シンプルなストーリーとして体験全体を表現するため、様々な気づきを得ることができるでしょう。実際の顧客の行動や感情に徹底的に、深く深く注目することで、思いもよらない視点に気づいたり、見えていなかった顧客の行動をあぶり出せることがあります。

5-2.企業の目線ではなく、顧客目線で考えることができる

カスタマージャーニーを作成する過程では、顧客視点で行動を考える力が必要となります。顧客がどんなことを思い、どのような行動を経て購買に至るか(至らないのか)を考えることにより、顧客目線に沿った商品企画やマーケティングに繋げられます。この重要性は頭では理解できますが、多くの場合、つい売り手の視点から製品やサービスを提供しがちです。ペルソナになり切り、カスタマージャーにを作成ることで顧客目線でのサービス設計ができます。また自社のサービスだけでなく、タッチポイント全体でより顧客を理解した形でのサービス設計ができます。例えば、保険申込のWebサイトを作る場合、当該Webサイトのだけのタッチポイントでは不十分です。ユーザーが、CMや比較サイトや口コミサイト、競合のサイトで確認する導線や、実際に代理店に訪問してヒアリング、知り合いや家族との会話など複数のタッチポイントを経由していることを俯瞰することで、Webサイトに記載するメッセージ等も変わってくるでしょう。ジャーニーの変化点を見つけることでポテンシャルのあるインサイトを見つけることができます。インサイトとは、揺らぎにより認識が変化したポイントです。

5-3.社内共有して、スピーディーに対応できる

カスタマージャーニーマップを作成・共有すると、関係するメンバーで共通認識を持てるようになり、施策の立案や意思決定・開発がスムーズになります。カスタマージャーニーを考えていく中では、商品開発や広告・宣伝、営業など、様々な関係者との議論を通じて認識をすり合わせていくことが必要です。また、こうした議論を通じて顧客理解を深めた結果が、ひとつのマップとして可視化されることで、社内外の関係者間で関係メンバーが「顧客理解」という共通認識を共有できるようになります。

組織内の関係するメンバーを巻き込んで、カスタマージャーニーを議論する効果は思いの外大きく、ユーザーの行動に対する共通認識が持てるようになり、施策の立案・検討やその後の開発がスムーズかつ精度高くできるようになります。

5-4.KPIが明確化できる

カスタマージャーニーマップに基づいて検討される施策の目的は、フェーズのどの段階にある顧客の、どのような課題を解決するか明確に定まります。そうなるとマーケティング施策のプランニングは、自ずとKPIの設定にもつながっていくのです。PV数にするのか?離脱率にするのか?KPIは着目したフェーズで変わってきます。例えばアンケートでの満足度は、この文脈でのKPIとしては不適切だと思われます。「満足度」が低い要因は分からないため、具体的な施策が分かりづらいからです。カスタマージャーニーマップで整理すると実験しやすいダイレクトなKPIと施策が導けるでしょう。

業務運営上、顧客視点を考慮してKPIを設定することが有効であることは、いうまでもありません。一方、カスタマージャーニーマップは、顧客の行動に関する仮説を整理したものであるため、マップを精緻化していく上でも、設定するKPIは重要な情報となります。設定したKPIはマーケティングだけの指標ではなく、経営全般における重要な指標になるとよいです。

5-5.ブランド価値の向上

企業として一貫したメッセージを届けることは、ブランド力の向上につながります。そのためにはサービス自体の世界観や理想的タッチポイントを、全社共通の認識に育んでいくことが重要です。顧客視点に立って自社の商品・サービスに関するユーザー体験のすべてを設計するのです。その中で、顧客とのタッチポイントの最適化や、CX向上を行うことができます。高いCXを提供することができれば企業のブランドを向上させ、結果、優良な顧客を獲得できるという好循環を生むことが期待できます。カスタマージャーニーマップを作成し社内の目線を合わせることは、一貫性をもったサービスの実現につながります。

6.カスタマージャーニーのデメリット


6-1.作成・運営に時間も手間もかかる

カスタマージャーニー作成の上では、実際の顧客の声をヒアリングしたり、アンケートを行ったりと調査が必要となります。なるべく根拠となる事実やデータなどに基づいて作成するのが理想です。そのため時間と手間がかかることは避けられません。

また、作成した後も、PDCAサイクルを回して常に見直しと改善を図っていく必要があり、作成したジャーニーと現実の顧客行動との間に乖離があれば修正を行い、それを関係者で共有する必要があるため、実際はかなりの手間がかかります。ここに時間を割くことができない場合、カスタマージャーニーマップで導き出した施策が中途半端になってしまう可能性があります。

6-2.効果測定が見えにくい

実施してから効果が見えるまでには根気よくPDCAを回していく必要があります。また、対応により得られた効果がでても、それがカスタマージャーニーマップを作成したことで得られたものだと明確にわかる効果が特定しにくく、効果測定自体が難しいという側面もあります。

6-3.マーケティング手法として古いとも言われている

一部では「カスタマージャーニーは現代のマーケティングに合わない」と言われることがあります。消費者はカスタマージャーニーのように一直線に進むわけではなく、行って戻るを繰り返します。スマートフォンが普及し、ネット検索がより気軽に行える中、消費者が得られる情報量は以前とは比較できないほど増えました。そのような状況の中、「一直線ではない」ということが「もう古い」と言われる原因の一つになっています。しかし一方で一直線のジャーニーは分かりやすく理解しやすいため、欠点も把握しながら使用することが重要と考えます。

7.カスタマージャーニー作成の注意点

7-1.企業担当者の都合の良い妄想になってしまう時がある

最も気を付けるべき点は、カスタマージャーニーマップが企業担当者の「このように感じて欲しい」、「きっとこう動くはずだ」という願望を強く反映してしまい、事実から乖離した「妄想」に近づいて行ってしまうことです。潜在的な思いが企業担当者には少なからずあると思いますが、それらの想いが強く反映されてしまうと、現実に即した内容になっていない可能性があります。調査やデータにもとづいた情報を使用し、データのない部分については仮説であることを明確にし、検証のステップを必ず挟むことを忘れないようにしましょう。カスタマージャーニーマップは、企業の希望に応じてユーザーを態度変容させるようなものではなく、あくまでも、ユーザー起点の思考・行動を企業が正しく把握するためのものです。

7-2.最初から細かく作りすぎてしまう

カスタマージャーニーマップの作成にあたっては、関係者で協議しながら、ターゲットとするペルソナについてできるだけ詳細まで設定し、具体的なペルソナ像を作成していくことが望まれます。一方で、ペルソナを詳細に作り込むこと、作成されたペルソナは、ごく少数の顧客しか含まれない小さなセグメントを表しているにすぎず、マーケティング施策に大きな効果を期待することはできない場合があります。このように詳細に作り込まれたペルソナは、具体的であるがゆえに、ペルソナにあてはまる少数の顧客と、方向性は一致しているもののペルソナとは異なる多数の顧客を生み出してしまうといったリスクもあります。

また、マップを完成させることが目的ではないため、時間をかけるべき段階はどこなのかを見極め適切な時間配分で作業を行いましょう。カスタマージャーニーマップについて、空白の枠や情報が少ない枠があっても当面問題ありません。あとから、その分野に詳しい担当者に聞くなどして情報を補足できます。キレイなカスタマージャーニーマップを作ろうとせず、わかっている範囲でまずはシンプルに作成し、その後、適宜ブラッシュアップしていく流れが現実的です。

7-3.作ることが目的になってしまう/バージョンアップしない

カスタマージャーニーを検討するなかで、「マップを作ること」自体が目的となってしまうことがあります。いくら綺麗な成果物を作成しても、実際に使えなければ意味がありません。それを避けるためにはなによりビジネスゴールを設定することが重要です。ゴールのないまま、作成をスタートしてしまうと、結局、マップは活用できないようなものになってしまいます。カスタマージャーにマップを作っても、設定すべきKPIをしっかり設定できなければ、十分な成果は得られなくなってしまいます。

また、カスタマージャーニーマップは、一度完成したあとも、定期的なブラッシュアップが必要です。ユーザーの行動や心理は、トレンドや外部環境の変化などによって変化します。

顧客の行動の移り変わりが激しい現代、カスタマージャーニーマップを1度作ったとしても、時間がたつと、現実とは合っていない所が必ず出てきます。半期や1年単位などでジャーニーマップを見直し、PDCAサイクルを回すといった仕組み作りも重要です。

7-4.ターゲットがビジネスに合っていない、ターゲットを把握できていない

カスタマージャーニーマップは、本来ペルソナごとに作る必要があります。ただし、自社の商品・サービスのターゲットとする顧客像が、しっかり定義されていなかったり、どのようなペルソナが適切か優先順位がつけられていない場合などには、ペルソナがぼやけたものになってしまいます。このような状況のまま、カスタマージャーニーマップを作成しても、予想したユーザーの行動と実際の顧客の行動が乖離してしまい、期待する成果は得られなくなってしまいます。一方で、逆に明確なペルソナの定義のもとでカスタマージャーニーマップを作成できていても、これですべての顧客に関するカスタマージャーニーとみなしてしまうと、成果につながらない場合もあります。カスタマージャーニーは顧客によりそれぞれ異なっているものですから、顧客のタイプに合わせたペルソナをそれぞれ設定し、それぞれのカスタマージャーニーについて検討し、どの顧客の、どの段階のタッチポイントに対して施策を展開するのかを、常に意識しておくことが大切なポイントです。

7-5.現状とあるべきを混在させてしまう

カスタマージャーニーには現状のカスタマージャーニーと、今後目指すべきカスタマージャーがあります。前者においてはなるべくファクトベースで作成すべきです。ファクトベースでないジャーニーは思考ツールや仮説としては使えますが、マーケティング戦略で使用するためには問題があります。後者のジャーニーはブランドドリブンに作成したりします。何の目的でジャーニーを作成するのかを意識しながら進めましょう。

終わりに

カスタマージャーニーマップの作成方法や目的についてご理解いただけましたでしょうか?ユーザーのインサイトを引き出し、チームで理解できるとても良いツールだと思います。ぜひこの記事を参考にカスタマージャーにを作成してもらえれば幸いです。