「カスタマージャーニー」体験記~ ユーザーのインサイト発見を追求する ~

「カスタマージャーニー」体験記

この記事はInsurtechラボのアドベントカレンダーの投稿になります

モノがあふれた現代。顧客をマスで捉えたり、プロダクトアウト的に考えるのでは限界が来ています。今回の記事では、ターゲット顧客の解像度を上げて課題やニーズを深掘る手法の1つである「カスタマージャーニー」をテーマに、この手法を初めて使ってみての体験談と得た気づきをいくつかご紹介します。

デザイン思考への初チャレンジ

 4月から、InsurTechLab.の一員として活動を開始し、その取組みの一環で某保険会社様を対象に、保険のWebダイレクト販売の拡大を狙った施策検討を行うこととなりました。

 ユーザー視点で課題を深掘り、施策を検討していく手法として、ペルソナやカスタマジャーニー等のデザイン思考の手法を用い、インサイトを得ようとする試行的な取組みです。取組みの大きな流れは図表1の通りですが、本コラムでは「③カスタマージャーニー」にフォーカスして、体験から得られた気づきをご紹介していきます。

カスタマージャーニー進め方の大きな流れ

カスタマージャーニーとは

 「カスタマージャーニー」とは、ユーザーがサービスや商品等を認知して興味を持ち、色々と調べ比較検討して、購入・利用に至る…、そういった一連の流れを「お客様の旅」に見立ててマップ化したものです。ターゲット顧客の中でも具体的にどのようなユーザーをジャーニーさせるのか、旅の主人公(ペルソナ)を関係者で設定・共有し、当該ペルソナの一連の思考・行動や感情を描く中で、ユーザー自身も言語化できないような隠れたニーズや課題(インサイト)を得ようとするものです。ペルソナがどのようにサービスや商品と出会い、どうして購入・利用することにしたのか/しなかったのか、その一連の流れを包括的に捉えることができるため、全体を俯瞰して対策を考えることができます。

どのようにジャーニーマップを描いたか

 今回の取組みでは、保険会社のお客様にも検討自体に参加いただき、ワークショップ形式で実施しました。オンラインのホワイトボードツールを使ったため、対面で集まらずリモートでの開催を実現することができ、且つ、ワークショップでのアウトプットもそのままデータで残るので大変便利でお勧めです。
 図2は実際に作成したカスタマージャーニーマップです。フェーズ、思考、行動(加えて、タッチポイントや、実際にペルソナが見るであろう画面キャプチャも貼付して表現)、感情(プラスの感情:ゲイン、マイナスの感情:ペイン)を表現するのは、よくある一般的なカスタマージャーニーマップですが、その他、アハポイント/チャーンポイントというレーンも加え表現しました。 


 アハポイントは、保険検討の次のステップに進みたいと前向きにさせる要因と結果、一方、チャーンポイントは保険検討を後ろ向きにさせ離脱してしまいそうになる要因と結果です。これらのポイントを最終的に可視化して要約整理することで、ジャーニーによる分析結果の頭の整理ができ、次の施策検討に繋げやすくする効果が期待できます。

体験を通して得られた気づき

 カスタマージャーニーを体験してみて、当たり前の話ですが「手法は単なる手段」であることを痛感しました。手法をただなぞるだけでは意味がなく、どのように創意工夫して、得たい価値を導き出すかが重要です。今回は体験を通した気づきとして、失敗談や工夫ポイントを解説していきます。

ペルソナの“リアル”な体験を感じる

 よくある行動に「検索」がありますが、この行動1つとっても、どれだけリアルで具体的な行動を想像できるかで、分析の密度は変わってきます。例えば「医療保険」で検索しようとキーワード入力してみると、「医療保険 不要」「医療保険 いらない」等、検索候補には思った以上にマイナスな言葉が溢れ、感情が揺さぶられることで、その後の行動も変わるかもしれません。ジャーニーをする上では、「リアルな行動」を(行える範囲で)実際に実施してみて、どんな世界が見えてどう感じるのかを肌で感じることも大切です。

ペルソナに深く潜り込むストーリー設計

 ペルソナを皆で考え、保険検討のオーソドックスな流れを示してワークショップ形式でカスタマージャーニーマップを作成しました。ですが、結果としては表層的なアウトプットしか生まれず、言ってしまえばジャーニーをしなてくも思いつくようなものばかりという結果に…。

 ここで得られた教訓としては「保険検討のストーリー」を明確にし、深くペルソナの気持ちに入り込むこと。ジャーニーの結果から見えてきた保険検討の4つの悪循環を基に、保険を諦めかけたものの再び保険を検討し始める具体的なストーリーを考え、ペルソナを深く知るワークショップを改めて行うこととなりました。

 「パートナーとこういう話をするんじゃないか」「YouTubeの動画を見て、こういう不安が生じ始めるんじゃ?!」…等、皆がその情景を思い浮かべられるようにストーリーを設計し、これを踏まえて「どういう思考・行動があれば保険に前向きになるだろうか」、「とは言え、こういうことがあると後ろ向きになるんじゃないか」、「更にこういうことがあればいいんじゃない?」…というように、反証を挟みながら思考・行動を深掘ることでペルソナに深く潜り込むことができました。

「インサイト」の定義

 前項のペルソナの深掘りを経て改めてジャーニーマップを描き直しましたが、ここで、さてどうしようという気持ちになりました。というのも、ジャーニーを描くことで何等かの「インサイト」なるものを見つけ出す必要があるとは理解していたものの、「それが一体どんなものなのか」「私がインサイトと思ったものが、他の人が見ても本当にそうだと言えるのか」…、インサイトの定義をどう解釈すべきか悩みました。チーム内で「インサイト」とは何か改めて考えてみた結果、以下のように定義付けることにしました。

元々持っていた感情が何らかの刺激により異なる感情・認識に変化して態様変動が生じる様

🔺結果としての「感情」という点だけでなく、原因である「思考・行動」もセットで(線で)捉える

自明でなく感情を揺さぶる強さがあり且つペルソナを含むターゲット顧客で再現性がある

🔺最初から分かりきっているようなものでなく、どの程度のペインを解消できるかといった感情を揺さぶる強さがある
🔺設定したペルソナだけに該当するものでなく、ペルソナが属するターゲット層や、その他広く該当しそうな再現可能性がある

 なお、どんなに素晴らしいインサイトでも、自社のブランドや商品展開等の中で同じような状況を現実的に発生させられる可能性があるか、施策化した後に指標化でき効果を計測可能なのか、といった点もインサイトの優先度を考える際に気にするべきポイントだと考えます。

※インサイトとは何かを理解するのに以下の記事が役に立ちました!
今さら聞けない!? これだけおさえれば大丈夫 「インサイトの基本」 | 株式会社デコム (decom.org)

おわりに

 今回の体験を通して、ユーザー視点で考えることの重要性を真に感じるきっかけとなった一方で、その奥深さ故に非常に難しく、一長一短で習得できるものではないということも痛感しました。また今回の取組みでは、得たインサイトをベースにアイディア発散まで行いましたが、これらはあくまでも仮説であり、本来は仮説を「検証」することも必要です。ユーザーインタビュー等を通して、仮説が正しいのか、或いは新たな示唆が得られるのか等、仮説と検証を繰り返しながら、ユーザーにとっての価値(アウトカム)を追求していく活動を、これからもInsurTech推進室での活動を通して自分のものにしていきたいです。