ユーザーリサーチのふりかえり 〜どうすれば、リサーチの臨場感をステークホルダーと共有できるのか?〜

2024年5月〜6月に顧客と共同で実施したユーザインタビューとアイデア創出の取り組みについてご紹介します。私たちが工夫したことと成功・失敗が、活動の参考になれば幸いです。

取り組みの背景

私たちの役割

toC向けプロダクトの改善やグロースについて、顧客(プロダクトオーナーである事業者)と協業しながら進めています。私たちは、プロダクトの改善やグロースに繋がる仮説検証を協力しながら推進することが役割になっています。
アプローチとして、プロダクトの利用状況から得られる定量情報と、ユーザーインタビューなどの手段により得られる定性情報を用いて改善アイデアを検討・検証しています。

プロダクトの課題

プロダクトは、特定の行動をするユーザーがコンバージョンに向かわずに離脱する、という課題に直面していました。
ユーザーリサーチにより、ユーザーの行動の背景を知り、プロダクトを改善することを目的に実施することになりました。

私たちの課題認識と狙い

活動に関する課題

私たちは、ユーザーリサーチや仮説検証について、ユーザーの思考の深くまでステークホルダーに伝わらないことが課題であると考えていました。
顧客には、「ユーザーリサーチ自体は必要なものである」と認識されていました。
一方で、ユーザーから直接的に得られた改善要望に注目が集まり、課題やニーズを深掘りすることが求められない状況がありました。
表面的なニーズだけでは、競合の差別化に繋がるような施策やビジョンの達成には結びつかないため、課題として捉えていました。

「一緒に経験する」ことで解像度の高いユーザー理解に繋がるのではないか?

ステークホルダーを巻き込んでユーザーインタビューと分析のワークを行うことで、ユーザーの表層的な言葉からは見えてこないインサイトの深堀りが重要であることを認識してもらえるのではないかと考えました。
また施策立案に役立ててもらうだけでなく、よりユーザー目線で施策実施の優先度を評価してもらうことも企図して取り組みを行いました。

取り組みの概要

プロダクト利用状況(Webマーケティングの定量情報)をもとに、リサーチ目的を設定し、機縁法によるデプスインタビューを実施しました。
インタビュー結果はKA法により分析し、課題の深掘り・仮説設定と解決策のアイディエーションを行っています。
これらのプロセスはすべて顧客と共同で実施し、結果として約20のアイデアを作成し、効果や検証のしやすさなどの優先度づけを行い、6つのアイデアを実行や検証の候補として選定しました。

リサーチ概要とスケジュール

工夫したポイント

①現状の定量値を用いてリサーチクエスチョンを定めた

取り組みの狙い
・プロダクトで検知されている複数の課題のうち、優先・集中するものを決めたい
・事実(定量値)に基づいて判断すると、スムーズに合意できるのではないか?

施策の紹介
・定量値を分析して、CVに至らない人の課題を仮説立てた
・立てた仮説に対して、どれを検証するかを合意することに試みた

起きたこと
・定量値から策定できた課題はあまり解像度が高くなかった
・関係者で合意を取るための議論の呼び水にはあまりならなかった

気づき(良かった点・悪かった点)
・定量値だけではユーザーの思考がわからず、フラットに思いつく課題を設定してしまった
・ステークホルダー自身が立てた仮説ではないので、議論がしづらかったのではないか
・初回ワークの仮説設定は、全会一致の合意を期待せず、仮説を提示してリードする方が良いのではないかと感じた(実際に検証を回さないと意見が出ない気がしました)

②目的/タイムボックスを準備した

取り組みの狙い
・1時間という限られた枠でマインドセットとアウトプットを行ってもらうため
・過剰な発散を防ぎ、アウトプットの方向性を絞るため
・目的やゴールを定めることで、限られた時間でもワークに集中できるのではないか?

施策の紹介
・ワークの前にかならずフレームを用意し、定型化された中で作業してもらった
・作業目的・ゴールを設定し、ワークに取り組む前に意識してもらった

起きたこと
・初めての取り組みでも、迷わずワークに入ってもらえた
・短時間で集中してアウトプットを行ってもらえた

気づき(良かった点・悪かった点)
・ワークの事前説明を行っても、アウトプットから前提や目的のズレが多少見受けられた
・特に、顧客目線で分析をするワークは、普段の視点から切り替えないといけないため、こまめなフォローが必要であると感じた
・時間的余裕が足りず、若干不完全燃焼な気持ちを持たせてしまう
・ワークの理解に時間がかかってしまうため、反復的な実施や勉強会を増やすなどの工夫が必要であると感じた

③インタビューを担当してもらった

取り組みの狙い
・ステークホルダーの方々に、ユーザー理解を深めていただくため
・ユーザーと話す(向き合う)体験が、最も強く印象付けられるのではないか?

施策の紹介
・スクリプトをステークホルダーと共に作った
・リクルートしたユーザーに対して、いくつかのパートのインタビューをステークホルダーにもになっていただく調整をした
・インタビューの前に、半構造化インタビューに関するテクニックの勉強会を実施した

起きたこと
・積極的に参加し、インタビュー全体の約4割ほどのご協力をいただいた
・半構造化インタビューに柔軟に対応してもらえた
・インタビュー後の振り返りで、リアルタイムに知り得た気づきや、インタビュー運営に関する改善意見が多数出た

気づき(良かった点・悪かった点)
・「ユーザーのことがわかる!」という体験をしてもらえた
 また、ユーザー価値を考えるワークでも意見が多く出るなど、後続タスクの成果に表れていた
・協力者の中から、知識/経験がない中で、臨機応変なインタビューをするのは厳しいという意見が出た
・初回のインタビューとしては十分な成果と考えていたが、担当された顧客メンバーの受け取り方とGapがあった
・担当者と共に、できたことを賞賛するような、プラス方向のふりかえりをした方が良いと感じた

④”余白”を意識してワークショップの準備をした

なぜなぜ分析を部分的に実施し、参加者に付け足し・追加してもらう

取り組みの狙い
・ステークホルダーの意見を引き出すため
・ワークショップに主体的に参加してもらうため
・実施したことの無い分析でも、ある程度の軸を出しつつ、追加や批判をしてもらうことはできるのではないか

施策の紹介
・インタビュー分析のワークを2/3程度実施し、残りはステークホルダーと実施する
・KAカード作成や、グループ化、まとめ、真因分析など
・我々が実施した内容を参考に、並列で意見を出せる余白を準備しておく

起きたこと
・意見の量を出してもらうことができた
・ワークのふりかえりで、「ユーザーに向き合えた」という反応をもらえた
・事業者視点(プロダクトアウト・施策ドリブン的な)から、ユーザー視点で課題を捉える内容のアウトプットがワークをこなすにつれ、徐々に増えた

気づき(良かった点・悪かった点)
・うまくまとめることを目標にせず、参加者とユーザーに向き合う時間を取ったことで、変化が生まれたと感じた(「ワークがうまくいかなければ、我々がキャッチアップする」という覚悟とセットでできた)
・ユーザー目線に立つことに苦労するステークホルダーが多かった
・早く改善策を考えたいステークホルダーから、不満がててきた(ユーザー分析をすることに時間を費やす意義を合意できていなかった)
・ワークルールや登場する言葉の定義を丁寧に決めておく必要があった
・作業ゴール・目的と、ステークホルダーの興味に関する距離感を理解しておき、興味が薄れるタイミングでは、目的についてしっかり擦り合わせる必要があった

施策の効果はあったか?

参加者に実施後アンケートをとった結果、以下のような意見をいただきました。
一方的にレポートをしてフィードバックを得ていた時と比べると、顧客からの意見が増えました。検証を共同で経験することにより、インプット(ユーザー理解)の質を高めることができたと考えています。

アンケート結果

リサーチで得られたことは?
・ユーザの意見を知ることができた
・課題の深掘りがすることができた
・準備の仕方、進め方について学びになった

リサーチに今後期待することは?
・ユーザ調査や仮説検証で、課題や施策の優先順位がつけられるようになりたい
・続けると改善のスピードが上がるのではないかと感じた
・定量数値から取れない意見から、効果的な改善が行えるようになりたい

今後の課題は?
・業務とのバランス/負荷があるので考慮したい
・ワークに必死で発言できなかったので、もっとコミュニケーションを取りながら進めたい


私たち自身としても、顧客と共にリサーチを進めることで、良い意味で緊張感を持って実施することができました。特に、リサーチクエスチョンと発見した課題、課題に対する施策をブラスことなく検討を進めきれたことは、良い成果になったと感じています。

一方で、ワークショップ形式で進行することによって、私たちが単独で進める際よりも時間がかかることが課題と感じました。今後も改善をしながら進めていきたいと思います。
・定期的、反復的に実施することで、リードタイムを短くしたい(鍛錬を積む)
・スピード感を求められる検証テーマなどでは、目的を満たせなくなるため、単独で進めた方がいいかもしれない
・絶対的に時間がかかるところを短縮する方法を検討する(リクルートに関して、外部リサーチ会社を活用するなど)


最後までご覧いただき、ありがとうございました。また新たなチャレンジを繰り返して、発信をしたいと思います。