営業現場の取り組みを仮説検証してみました!!

2022年4月からInsurTechLab.の一員としてチーム「仮説検証/R&D」に参画。現在取り組んでいるこの「仮説検証」を、かつて保険会社に勤務していた当時の営業現場で取り組んだ施策に当てはめてみることで、自身の取り組みを振り返ってみました。

1.施策の取り組みに至った環境・経緯

 a.業務環境

 当時の私の業務環境などは以下のとおりでした。

一番労力をとられていたのが「解約防止」。他の業務は時期が特定されるものが多いなか、解約申し出は日々発生するなかでの対応となっていました。
解約申し出の主な理由が「保険料が負担」。解約申し出があると自動的に支社にメッセージ連絡が入り、支社では「解約防止指示書」なるものに「解約防止設計書」(保険金減額、減額転換等で保険料負担を軽減する提案書)をつけて該当支部に連絡。この手法は徹底度の濃淡はありますが、全国の各支社で共通しており、初めて担当する私も保有純増推進部メンバーからノウハウを学んだり、他支社の「解約防止設計書作成要領」などの取組みを参考にしながら推進していました。

b.現場の対応は?

営業職員の処遇(資格や給与)に影響ある場合は一生懸命「解約防止」に取り組みますが、影響がない・影響が少ない場合は熱心さが薄れる(取り組まない)傾向がありました。即ち、総じて契約後2年を経過すると直接的な影響はなくなり、その労力は総じて「新契約募集」に向けられていました。「お客さまが減る」との感覚はあまりないような状況でした。

加えて、担当者不在籍契約(担当営業職員が退職し、後任担当者が未設定)の解約申し出に対しては、ほぼ放置状態になっていました。

c.担当者の設定状況は?

担当者の在籍有無、担当者退職後の後任者設定状況により以下のとおり分類されます。「営業職員のターンオーバーが激しい」といわれた生保業界独特の状況でした。

即ち担当者不在績契約占率約35%で、保有の3件に1件は営業職員がコンタクトをとっていない状況。
これは他生保会社からの攻勢を受ければ解約されてしまいかねない契約が1/3ある状況であることを意味していました。

d.抱いた疑問?や改善策は?

「解約防止に日々追いかけられるような業務から脱却しないと対応に限界あり!」
「事前に何か手を打てないか?」
「施策金を使って現場のやる気を出させることができないか? しかしその財源は?」
「営業職員の処遇や栄誉に関係する要素を使えないか?」(顕彰等)

等々様々な切り口で検討しましたが、「個別対応では限界あり。一本筋の通った施策を打ち出し、支社全体で統一した運営が必要」との結論に至りました。(課題の明確化)

e.気付き(仮説)

「不在績契約のうち、Y契約を新人の活動基盤として、X契約化する訪問活動の推進ができないか」
「これが上手くいけば、Y契約の担当者設定を進め、その契約をX契約化する活動を促進、これを循環させることで担当者を明確にすることで減少抑制に繋がるのではないか」

f.現場にヒントあり!(これも仮説の検証か)

地域活動(自宅訪問活動)を中心に取り組んでいるN支部の新人Eさん。Y契約をX契約にすることでお客さまに担当者として認知され、定期訪問を継続することで信頼を得て新契約募集(W契約)に結び付けていました。Eさんは主に、お客さまに各種特典を提供でき、会費も要らない「ファンクラブ会員入会手続き」を推進していました。

g.会社の制度で活用できるものはないか?⇒あった!

会社の諸制度・諸規定を確認(リサーチ)していくと、「保有貢献手当」の存在に気付き、思わず「あった!」と手をたたきました。
*保有貢献手当:営業職員一人ひとりについて「保有契約件数ランク/前月の減少契約件数」に応じて金額が決まる給与費目。


前年度の給与制度改正での新設費目でしたが、当時は全社的に「給与の1費目」程度の認識しかなく、本社の保有純増担当部門や他の支社では、この費目を「保有純増推進」に活用するとの動きはありませんでした。制度内容を詳細に見てみると「保有契約に貢献する営業職員に費目を新たに追加する」ことの重要性、会社の本気度を感じ、「これは使える!」と判断、支社運営での活用を検討しました。

「保有貢献手当」をうまく活用すれば、支社で統一した運営ができるのではないか』(仮説)と考え、現場や支社スタッフの声などを収集し、取り組みを開始しました。(検証)

2.「保有貢献手当活用」による取り組み策

a.三者(お客さま、会社、営業職員)の思いは?

・お客さま   安心して契約を継続できるよう、いつでも相談できる担当者がいること
・営業職員   活動環境が安定し、処遇が向上すること
・会社(支社) 継続性の良い保有契約が増えること(収益向上)

このような仮説のもと、営業職員一人ひとりの担当保有契約を増やすことが
 ◎お客さまに認知された営業職員がいる=お客さまサービスの向上
 ◎お客さまに認知された担当契約が増える=営業職員の給与アップ
に繋がると整理しました(仮説)
この考え方を優績支部長や保有契約の多いベテラン営業職員にぶつけてみると、(一部反応の芳しくないケースはありましたが)総じて反応は良好でした。(インタビューによる検証)
良好な反応を得たことから、支社の運営として実施に移していきました。

b.実施推進策(実現手段の徹底)

「保有貢献手当」への理解度が低い状況でのスタートであり、先ずは教育・教宣に力を入れ、並行して推進策をあの手この手と打ち出し、支部長や支社販売スタッフとの連携を図り、支社運営の柱の一つとして浸透を図っていきました。幸いなことに、私が担当していた「保有純増推進部」には支部長経験豊かな2名の先輩が在籍し、スタッフとして支えてくれていました。私はこのスタッフと連携して取り組んでいった次第です。主な推進策は以下のとおりです。
・教宣活動
「月報」(支社の運営や事務の留意点などを掲載し、全職員に配布)に「個人別担当保有契約件数一覧」掲載
「保有貢献手当一覧表」(ポスター)を支部に掲示
例月「個人別保有貢献手当一覧」を支部長あて送付 等々
・保有件数ランクアップの推進
3ヶ月毎の査定で決まる保有件数ランク。個人別担当保有契約件数一覧から、あと数件でランクアップできる担当者をピックアップし、「Y契約のX契約化」を推進。(支部朝礼や諸研修での個別活動)
・減少契約抑制
保有純増推進部の主な業務(解約防止、復活勧奨、保険料未入契約の入金勧奨、新契約募集後の訪問活動推進、定期特約自動更新等)を通じて、「保有を増やして給与を増やそう!」をキャッチに呼びかけ。
・新人研修との連携
「研修期間中(6ヶ月)に保有50件達成!」を研修の軸の一つに。
・個別声掛け
新人には「給与の増える話をしよう」(この一言で顔(耳)がこちらに)、ベテランには「あと〇件で代替わり」(このささやきに敏感に反応)など、機会あるごとに「保有貢献手当」を話題に声掛けをしました。

3.仮説キャンバスの作成

ここまでの情報をもとに仮説キャンバスを作成してみました。

4.運営の結果(評価)

運営を実施した後の状況は以下のとおりです。

a.数値面(運営開始後7ヶ月経過段階)

仮説キャンバスに掲げた「評価指標」(保有契約の増加(減少契約の抑制)、全国順位ランクアップ、営業職員の処遇向上)は上表のとおり達成しました。また、減少を抑制する最初の活動(減少予防)である「新契約募集後の訪問活動」も着実に前進しており、風土改革に繋がる運営であったと思います。
「お客様サービスの向上」に関しては、解約・失効に代表される減少契約が抑制され、契約の継続性が良好になったことから「向上した」と判断できると思います。

b.成功者の登場が刺激に!

前述の「現場にヒントあり!」の項で紹介した、地域活動(自宅訪問活動)を中心に取り組んでいたN支部の新人Eさん。「ファンクラブ会員入会手続き」をフル活用し、保有貢献手当支給の保有件数基準50件を僅か3ヶ月で達成しました。新契約募集を、例えば「平均月4件」(これは立派な成績です)の積み重ねただけでは1年以上かかる成績。これを僅か3ヶ月で達成したのです。中部地区運営部署のインタビューを受け、「支社研修で教育された『保有50件』を意識して活動した結果です」と答えています。Y契約をX契約にしたお客さまから次々と新規契約を募集し、その成果も含めて中部地区各支社(8支社)に「モデル新人営業職員」として紹介され、また、本社教育部門からCD教材で全国に紹介されました。多くの人に良い刺激を与え、活動促進のきっかけの一つとなったように思います。

5.終わりに

以上、当時の取組みを仮説検証の視点で書き下ろしてみました。当然ながら、支社運営策の策定において「仮説を立て、その有効性を検証し、仮説の再定義などを繰り返し、実行に移し、更に実効性を高めるための仮説を立てる・・・この循環」などと理論立てて取り組んではいませんでしたが、今振り返ってみると、無意識のうちに仮説検証の要素をいくつか取り込んで実行していたように思います。
(当時の)営業現場では「結果を出す」ために、色々アイデアを出し合いながら奮闘していますが、成功に結び付くのは限定されていたように思います。今私達が取り組んでいる「仮説を立てて検証し、前進していく」発想があれば、実現度も変わっていたように思います。もう一度当時に戻って取り組んでみたいものです。

※付記※

当時、「あと1年、この運営をさらに強化し前進させたい」との思いで上層部とも合意形成していたのですが、この頃、業界を揺るがす事態になった「保険金・給付金の支払い漏れ問題」が勃発。この緊急事態に会社は「過去支払い分の点検・検証」体制をとり、不幸?にも保険金・給付金部門を経験していた私にも召集がかかり、異動となってしまいました。「願い叶わず!」の結果になったことを付記しておきます。

以上