ノーコードの魔法 – イノベーションを加速するもの

 Insurtech研究所では、ノーコードプラットフォームを活用したアプリケーション開発を研究しています。ノーコードプラットフォームを活用することで、保険業界のイノベーションを加速し、デジタルトランスフォーメーションを推進することができると考えるに至りました。

※この記事はInsurtechラボ2022アドベントカレンダーの1日目の記事になります

ノーコードプラットフォームとは

 アプリケーション開発において、プログラミング言語を用いたソースコードの記述をしない手法は、ノーコード開発と呼ばれています。このノーコード開発ができる環境を提供するソフトウェア製品やクラウドサービスが、ノーコードプラットフォームです。ユーザーがコードを少しだけ書く場合には、ローコードと呼ばれることもありますが、ここでは区別しないことにします。

 ノーコード開発ではソースコードを記述する代わりに、例えば部品をドラッグ&ドロップで配置するといった操作で、UIやフローを視覚的に開発することができます。また、アプリケーションの実行環境も同時に提供されている場合、開発した画面や処理を即座にプレビューし、表示や動作を確認することができます。

OutSystemsの開発画面 視覚的に開発することができる
OutSystemsのプレビュー画面 開発したアプリケーションを即座に確認できる

研究対象のノーコードプラットフォーム

 ノーコードプラットフォームと一口に言っても、多種多様な製品・サービスがあります。それぞれ得意とする開発領域も、提供する開発手法やアウトプットも千差万別であるため、一括りにして語ることは適切でないと考えます。

 Insurtech研究所では、ITの専門家が保険会社等クライアント企業のシステムを開発するケースを想定して、ノーコードプラットフォームの活用を研究しています。そのため、開発者は「ITの専門家」、開発するのは「保険会社のお客様(一般消費者)が利用するアプリケーション」というケースに適しているノーコードプラットフォームを対象としています。

ノーコード開発にもITスキルが必要?

 ノーコード開発のメリットとして、「開発期間の短縮」「習得が容易」「開発コスト削減」といった効果が一般的には期待されています。

 確かに、「ITの専門家でない人」が「社内で使う」部門個別最適のための業務アプリケーションを開発するケースならば、適切なノーコードプラットフォームはその期待に応えてくれるでしょう。しかし、データの保存や更新をする、分岐や繰り返しを含む処理フローを実装する、他のシステムとAPI連携する、といったよくある要件を実装するならば、システム開発の知識や経験のある人がいないと、期待した効果を得るのは難しいです。

 また、ノーコードプラットフォームにはそれぞれ得意な領域がありますが、領域外の要件に合わせるべくカスタマイズしようと思うと、難易度が跳ね上がります。ノーコードプラットフォームで開発する範囲を見極めて、アーキテクチャを設計することが大切です。その上で、システム全体に対して「開発期間の短縮」「習得が容易」「開発コスト削減」の効果が発揮できそうか判断することになります。

ノーコード開発は「2025年の崖」に立ち向かえない?

 「2025年の崖」とは、経済産業省がDX(デジタルトランスフォーメーション)レポート(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/DX_report.pdf)にて、企業がレガシーシステムを抱えた場合の経済損失が近い将来に膨れ上がることを警告した表現です。その経済損失の直接的要因は、既存システムのブラックボックス化により、メンテナンスできる人材が枯渇することと述べられています。

 ノーコードプラットフォームはその性質上、ユーザーがアプリケーションの内部の仕様を把握することが難しく、アプリケーション障害発生時の原因調査が難航する恐れがあります。また、ノーコードプラットフォームは習得が容易とはいうものの、開発やメンテナンスに高いITスキルが要求されることは間違いありません。そのため、ノーコードプラットフォームを採用する場合であっても、フルスクラッチの場合と同様に、将来のブラックボックス化への対策は必要です。

ノーコードの魔法 – イノベーションを加速するもの

 ノーコードプラットフォームは万能ではありません。不得意な領域ではカスタマイズしづらいです。ITスキルは要求されます。ブラックボックス化しないよう注意を払わないといけません。

 それでも私は信じています。ノーコードプラットフォームを活用することで、保険会社のイノベーションが加速し、デジタルトランスフォーメーションが推進されるということを。

 それは、ノーコードプラットフォームが、システム開発における保険会社とIT会社の協力体制をより強固なものにし、アジャイルな価値創出を促進すると考えているからです。

 保険会社としては、社会情勢の変化を見据えた新しい施策を次々に打ち出していきたいところです。しかし、新しいことをリーンスタートアップの手法で始めようにも、従来のウオーターフォール型開発では、試作品(MVP)を作って改善していくというプロセスを迅速に繰り返すことが不可能です。

リーンスタートアップって何?

 そこで、ノーコードプラットフォームを使うと何が変わるでしょうか。

 第一に、すぐに動かせる上にセキュリティが担保されたアプリケーション実行基盤が提供されるので、実証プロジェクトを開始するハードルが格段に低くなります

 次に、試作品の作成をIT会社に委託したとしても、保険会社とIT会社のコミュニケーションが従前よりも高頻度になります。ノーコードプラットフォームで開発されたアプリケーションは即時で実行確認できるので、保険会社側が手軽に動作確認できます。そこで生まれたフィードバックをIT会社が素早く更新すれば、すぐに保険会社が再確認できます。こうしてお互いの情報交換の頻度が上がり、業務で必要とされる価値を素早く実現できる体制が整います

さらに、システムのブラックボックス化が抑止されます。保険会社が何度も確認し、必要とされる価値に絞って実現されたMVPは、その機能の意義がクリアになっています。ノーコードプラットフォーム上で無理にカスタマイズされていない実装は、そのプラットフォームを知る人ならば誰でも理解することができるため、メンテナンスが容易です。ノーコードプラットフォームの開発画面は視覚化されているため、保険会社でもIT会社でも引き継ぎの負荷が軽くなります。

 保険会社は事業の価値を高めるデジタルトランスフォーメーションに積極的になり、IT会社ともより密な協力体制を敷けるようになる。これこそが、ノーコードプラットフォームの真価なのです。