自分で生命保険を探すのは、難しくないですか?保険選びのユーザー体験を考える。

本記事は筆者の個人的な考えを紹介するものであり、特定の商品への加入を募集する意図はありません。

筆者は最近、生命保険に関連するユーザー体験をデザインしたくて、情報収集をしています。

令和3年度の生命保険に関する全国実態調査のレポートによると、民間保険、簡易保険、共済を含めた全生保の世帯加入率は89.8%(図表I-1)となっており、日本国内で保険が広く普及していることが分かります。加入した保険商品(図表I-147)や加入チャネル(図表I-140)の満足度について、8割以上が肯定的な回答であり、不満の回答は平成21年の調査から年々減少傾向にあります。生命保険業界の努力により、加入者からの信頼を獲得できていると推察します。

すなわち、現状でも生命保険のユーザーはそれほどペインを感じていない、ように読めました。そのため、この先は筆者のエゴになります。

これから先、特に初めて保険を検討する若年世代の方に、保険商品に納得して選んでもらうようにしたい、という個人的な想いがあります。

「自分の保険の知識に自信がないから、保険外交員や保険代理店に相談するのを躊躇ってしまう(20代男性、保険未加入)」

「内容はよく理解していないけれど、しっかりした保険会社の商品ならば、加入しといて安心だろう(40代男性、保険加入)」

筆者の周囲から、このような声を聞くことがありました。本人に強い課題やニーズはないでしょうが、生命保険の新規契約の商品選択や設計における、もっと良いユーザー体験をデザインできそうな感触があります。

直近の生命保険の加入理由のうち、「希望にあった生命保険だったので」という理由は年々上昇しています(図表I-115)。希望にあった生命保険だと加入者が納得できるユーザー体験はどんなものなのか、筆者個人の経験を振り返りながら考えていきます。

筆者の経験談:自身の保障ニーズを知る

筆者は新社会人1年目に、一社専属の保険外交員から営業を受けて、生命保険に加入しました。1回目にお会いした時に、家族構成やライフプランのヒアリングを受けまして、保障の考え方について説明をしてくださいました。そして、2回目にお会いした時に、設計された保険商品について説明をしてくださいました。

当時、筆者は生命保険について知識がなかったので、保険外交員と会話することで保障を考えられたのは良かったと思っています。

社会人1年目の当時は、当然に銀行預金もほとんどありません。そのため、もし翌日に事故に巻き込まれて高度障害の状態になった場合、障害年金で一部賄えるものの、生活のための金銭的負担が重くのしかかります。だから、収入減少と支出増加のリスクに、生命保険で備える必要があると保障ニーズを認識しました。

また、家計資産のポートフォリオについて、「現金」「保険」「投資」のバランスを取ることが大事だと教わりました。

現金

生活費や急な出費に備えて、すぐに引き出せるようにしておく資産。
銀行預金は利息がほとんどつかないので、長期的には価値が目減りしていく。

保険

起きるか分からない大きな出費に備える資産。
有事の際に金銭的に困らなくなるが、解約すると損をするので、安全に保険料を支払えるように注意が必要。

投資

当面は使う予定のない資金を運用することで、インフレに備える資産。
価値が落ちるリスクがあるので、リスクを許容できる範囲で中期的に行う。

社会人1年目の時の筆者は、現金が少なく、保険も投資もないという状況でした。この状況を踏まえて保険外交員は、毎月無理なく支払える保険料を試算して、定期死亡保険と貯蓄性の終身死亡保険を提案くださいました。

ちなみに、後に現金に余裕が生まれた際、定期死亡保険を転換して、同じ保障の変額保険に加入することを提案くださいました。

保険外交員という加入チャネルに対する感想

筆者は別の会社の保険外交員からも、保険に加入しています。どちらの会社の保険外交員についても、加入チャネルとして満足しています。

一社専属の保険外交員の良いところは、保障ニーズを喚起してくれるところだと考えています。筆者自身は金融にあまり関心がなかったところ、保険外交員の方が説明くださったおかげで、保険や投資について考えるようになりました。

一方で、ユーザー体験を向上させるために、以下の点を盛り込む余地があるのではないか、と考えています。

複数社の保険商品を比較する

主に乗合代理店が担当している領域です。

一社専属の保険外交員は、個人の状況をヒアリングした上で保険を設計してくれるのですが、その会社の保険商品でできることの制約があります。ユーザー目線だと、保険料の相場観が備わっていないので、加入に迷いが生じてしまいます。また、保険を設計してくれた保険外交員に対して申し訳ないと感じてしまい、納得しきれないまま加入してしまうと、スッキリしない体験になってしまいます。

ユーザーが保障ニーズを自覚した後ならば、乗合代理店で相談、複数社の保険外交員に相談といった能動的なアクションを取ることもできるのですが、積極的にニーズ喚起してくれるのが一社専属の保険外交員なので、良いところを両取りしづらいジレンマがあります。

死亡保険や生存保険ならば、まだ分かりやすいから良いです。医療保険や生前給付保険は、各社が多様な商品を展開しているので、そのバリエーションを理解できると、保険選びがもっと楽しく満足のいく体験になるのではないでしょうか。

他の投資と比較する

2024年現在、NISAやiDeCoといった、税制上有利な個人投資の仕組みが始まっています。

保険外交員の営業を受けることで、金融の知識を得ることができ、ユーザーが投資に回してもリスクを許容できる金額を考えられるようになります。そこで保険外交員は、変額保険などの自社が取り扱っている投資性を併せ持つ商品も提案できるのですが、そこで個人投資の方法であったり、投資信託の商品について説明することができません。

投資に消極的で受動的なユーザーであれば、保険会社に投資を信託することは悪い選択ではないと思います。ただ、ユーザー目線、保険について学んで資産ポートフォリオを考える機会ができたのだから、この機会に投資についても一緒に考えられると、さらに総合的なライフプランニングができて、満足度が高まるのではないでしょうか。

保険加入チャネルのいいとこ取りができないだろうか

  • 一社専属の保険外交員。ユーザーの金融知識を向上して、保障ニーズを喚起してくれる。商品知識についてはプロフェッショナル。親身に相談してくれるし、信頼関係が築けているので保全や請求の場面でも心強く、保険の加入の背中を押してくれる。
  • 乗合代理店。保障ニーズを自覚したユーザーに対して、幅広い保険会社の商品を紹介してくれる。保障ニーズがフワッとしていれば一緒に深掘りしてくれるし、ユーザーから相談を持ちかけるスタイルなので無理に加入を勧めることはない安心感がある。
  • インターネット通信販売。保険料がシミュレーションできるので、透明性が高く信頼がおける。ライフプランニングもユーザー自身でできると納得感が大きい。生命保険文化センターが、e-ライフプランニングというシミュレーションツールを公開している。

より良い保険のユーザー体験をデザインするために、対人コミュニケーションと情報公開による信頼関係の構築、そして金融全般のサービスや社会制度も考慮して、ユーザーが安心できる人生設計のやり方を勉強したいと考えています。