仮説検証の活動って何?

 この記事は2025.3アドベントカレンダー3日目の記事として書いています。本記事では、仮説検証活動の本質と効果的な進め方について考えます。

※本記事は私の個人的な見解をもとに書いています。異なる視点やご意見があれば、ぜひコメントいただけると嬉しいです。

1.半構造化インタビューだけが仮説検証ではない

 ラボでは仮説検証の活動を大事にしています。こういったスキルは練習・継続が大切だと考えています。

 とあるチームで「仮説検証のスキルを伸ばしたいため、実際にユーザーインタビュー活動を実施してみる」を今回のスプリントゴールのポイントと置いて目的やタスクを整理していました。素晴らしい内容だと思いつつ、個人的にはやや、モヤモヤする点も感じました。それは今までは、『仮説検証』に関する活動を実施していなかったのか?という点です。

 今まではとりあえずプロダクトβ版を創ることを目的に進めており、仮説検証活動は出来ていなかったので、β版が完成したため、仮説検証活動を始めたいという流れでした。

 さらに話を聞いていると『PSFit(Problem-Solution-Fit)とSPFit(Solution-Product-Fit)に関する半構造化インタビュー』を仮説検証活動と捉えている節がありました。確かにこういった活動は非常に大事ですし、独特のスキルもいる為、経験/練習するという事は大賛成です。ただ、仮説検証スキルを伸ばしたいからこういったインタビューをやってみたいというのは個人的には短絡的ではないか?と感じています。

新規事業を成功させるPMFの教科書 より

 仮説検証スキルを伸ばすには、半構造化インタビューの練習よりも、日々のスプリントゴールの設定・検査・適応に力をかけたほうが効果的だと考えています。

2.「仮説検証」と「解像度を上げる」とは

 グロービスの経営大学院のHPによると仮説検証については下記説明となっています。

仮説検証とは グロービス経営大学院HPより

仮説検証とは、仮説の真偽を、事実情報に基づいた実験や観察などを通じて確かめること。以下の3つのプロセスを繰り返し行う「思考のプロセス」と捉えられる。
1.状況の観察・分析
2.仮説の設定
3.仮説の検証

 仮説検証とは、未知のものを仮説として定義し、それを検証するプロセスです。

 話は変わりますが、書籍『解像度を上げる』では、物事を理解する際に『深さ・広さ・構造・時間』の視点で整理することで、解像度が上がると説明されています。

 下記は公開されているスライドの事例を持ってこさせていただきましたが、『醤油がおいしくない』という問題に対して、『美味しい醤油を作る』という解決策に飛びつくのは失敗となります。こういった場合に、下記のように「深さ・広さ・構造・時間」で整理していく中で、問題と解決策を明確にしていきます。

解像度を上げる(馬場隆明氏)より

解像度を上げる(馬場隆明氏)より
解像度を上げる(馬場隆明氏)より
解像度を上げる(馬場隆明氏)より
解像度を上げる(馬場隆明氏)より

 上記解像度を上げる方法については2種類の方法があります。既知の内容については、上記軸で整理していく方法と、未知の内容について仮説を立てて実証していく方法です。

 前者で言うとデスクトップリサーチや過去のデータや発表等を見るという事があります。また、後者で言うと実際に実施してみて振り返ったり、インタビューをしてみることがあります。大事なのは、そういった行為そのものではなく、その行為によって上記、「深めていく、広げていく、構造的な理解を進める、時間軸での理解をする」といった点で解像度が変わっているか?点が大事だと考えています。

 わりとラボの半構造化インタビューを中心とした仮説検証活動については「深さ」メインの解像度強化を目的にしていると感じます。基本的にはそれで良いのですが、プロダクトのMVP初期のタイミングでは、ユーザーインタビューを実施すると、「広さ」や「構造」についての捉え直しにつながるケースが多く、そういった複数の軸も大事に進めることが大事だと考えています。

 PSF-SPFといった点の確認はまさに深さの確認ですが、結局、CPF(Customer-Probrem-Fit)に関する顧客理解が十分でないケースが多いため、一定の構造や広がりを意識した仮説検証が重要だと考えています。

 また、そもそも、仮説検証においては未知の内容のため、複雑性が高い場合で有効です。そのため、不確実性が高くない内容であれば、デスクトップリサーチや調査で解決できる点も多いです。

 ただ、世の中的には既知であっても自分達にとっては未知なものも多いので、そういった意味で仮説検証の検証活動をリサーチで行うという事も個人的にはありだと思っています。(例えば、実際に作ってみてからUXのチェックを実施して改善する活動等)

(作って触ってみると一気に解像度があがるが、それを上記軸だけで分析してから進めようと思うと深さやリアリティが圧倒的に足りず、先に進みづらい)

3.スプリントゴール設定こそ仮説検証の実践

 上記のように未知の事象に対して、仮説検証を行い、解像度を上げるという事は非常に大事だと考えています。

 プロダクトの文脈だと不確実性が高いユーザーニーズの確認の文脈で『仮説検証』という言葉が良く使われますが、チームビルディングや組織運営等、普段の活動においても色々と不確実な内容が多い中では、顧客検証の所だけ仮説検証を持ち出すというよりも普段のスプリントにこそ仮説検証的な進め方を意識してもらいたいと思っています。

 「書籍:スプリントゴールで価値を駆動しよう」では、「謙虚な計画」の大切さを述べています。これは、最初から完璧な計画を立てようとするのではなく、一歩を踏み出してからその実績を持って計画することが、複雑な状況下ではより効果的ということです。

 この感覚が仮説検証では大事と考えていて、耐えず状況を観察しながら、いくつかの仮説を設定しつつ、優先度の高いモノから一歩踏み出し検証していくという流れが大切だと思っています。

 私はスプリントゴールを立てる時は下記プロセスで立てています。

①:バックログを眺める(何となく今考えてるスコープを把握する)
②:ユーザーやスクラムチームを含めた、いくつかの主要なステークホルダーがスプリント期間後どんな状態になっていたら嬉しいか妄想する
③:②の内容をチームで話し合って、仮ゴールを決める
④:スプリントレビューのイメージアップをする
⑤:仮ゴールに対してバックログも選びながら最終FIXする

 この時のゴールは「計画通り達成できそうなことよりもゴールを選ぶことでゴールを選ばない世界よりも価値が産める感覚があるか?」「プロダクトやチームのビジョンに向かっていくゴールか?」という点を重視しています。

 まさに、このゴール設定自体が仮説ですし、スプリントレビューで検証可能な状態になっていることで、プロダクトビジョンやチームのビジョンに向かっての解像度が、少しずつあがっていきます。最初は妄想が多いですが、活動していく中でだんだんと生き生きとした実感を得る量が増えていく事が大切だと感じています。

 この「ゴール設定」に対しては、スキルが必要と考えていて練習を繰り返さないと身に付きづらいです。

 そのため、このゴール設定とゴールの確認を力を入れて、繰り返すことで仮説検証スキルもどんどん上がっていくのでは?と考えています。

 日々のスプリントゴール設定とその検査・適応で上記「深さ・広さ・構造・時間」での何らかの問題に対する解像度があがったのか?この回答に答えられないのであれば、仮説検証のスキルを上げるためにも、まずはスプリントゴール設定とスプリントレビューに力を入れることが大事なのでは?というのが私の意見です。

4.まとめ

 仮説検証スキルは、ユーザーインタビューだけでなく、日々のスプリントゴール設定・検査・適応の中で鍛えられます。
重要なのは、解像度を上げる視点を持ち、チームが価値ある仮説検証を実践できるようにすることです。
今後のスプリントで、ぜひ仮説検証のスキル向上を意識してみてください。

 読んでいただきありがとうございました。