「それいいね!すぐやろう」の前に

この記事は2023年12月アドベントカレンダー9日目の記事となります。

そういえば、このinsurtech研究所を「LLM」「llama」などで検索して訪れてくれる人がかなり増えたそうです。こつこつと記事を投下した甲斐がありました!

https://www.insurtechlab.net/tag/%e3%83%89%e3%82%af%e3%82%bf%e3%83%bc/

今回もやってやるぜ、と思っていまネタ帳を見ているのですが、すでに陳腐化したり、何でそう思った?というものばかりでした。

AIの話題は2週間もすればゴミになると誰かが言っていましたが、その通りでした。そして、12/9が投稿期限なのに、もう12/10です。やばいです。まだアディショナルタイムのはず。

このブログは、学んだことであれば自由に書けるところがいいところなので、個人的に衝撃を受け、身に沁みて学んだことを書こうと思います(勝手に)。

ここで言いたいこと(長いので)

2つあります。そして、一番大事なことは最後に遅れてやってきます。

  • 「それいいね!やろうよ」と思ったら、いますぐやる前に「どんな課題があったの?」を言語化しよう。言語化するプロセスで仮説キャンバスはすごく役に立ちます
    • このとき、心理的に「え〜そうかな〜?」と思っても、まずは事実を受け入れて立ち止まって考えてみよう
  • 特殊詐欺に引っかかり掛けました。年末ですね。認知バイアスを利用して個人情報をまんまと持ち逃げされました。お腹が痛くならなかったら、もっとむしり取られていたはずです。許せません。絶対に
    • いまこのタイミングでやらないと損失する、であっても一旦立ち止まって考えてみることが本当に大事です

え、2つ目の関係あるっぽく書いてるけどに無関係の話題では?いえいえ、繰り返しになりますが、一番大事なことは最後に遅れてやってくるものです。

もしほんの少しでも興味があれば、読んでみてください。

エピソード1:課題を仮説キャンバスを使って言語化しよう

背景

私たちは、ソフトウェアプロダクトを継続的に改善するために様々なアイディアを検討&試しています。改善の方向の一つは開発プロセスの「爆速化」です。最適化の呪縛ではありません。私たちはプロダクトの「正しさ」を世に問うて素早く適応するために爆速化させたいのです。

ただ、思いつくものはやってしまっているので、アイディアを出すことに苦労しています。

あるとき、何か良いアイディアないかと検討していると、過去に開発を爆速化にしてくれた自作Figmaプラグインを改修したら?という案が出てきました。

Figmaプラグインがどんなものかは、以下のデザイナーさんのBlogをご覧ください。

このFigmaプラグインはとてもシンプルな構造ながら、Figma+Amplify Studio開発時の出戻り率(Amplify StudioにFigmaを取り込んでからエラーが発覚してFigma作り直すこと)を脅威の9割削減した実績があり、我々の成功体験の一つとなっていました。

いまここで再び、この栄光のツールを洗練することができるのなら、さらに価値のあるツールになる、そんな予感さえしていました(大袈裟)。

実現手段から課題、課題から実現手段を考えてみよう

「さ、実装しよっか」なのですが、今回はPOから以下のお題が与えられていました。

  • 課題があるのなら、仮説キャンバスを作って提案価値、実現手段を分析する
  • 実現手段があるのなら、仮説キャンバスを作って課題を分析する(本当に切実な課題はあるのか?)

上記のFigmaプラグインは後者にあたります。プラグインをこんな風に改修しようというアイディアが先行しており、それによって解決される課題を言語化しましょう、という訳です。

最初の罠:すでに実装済みだった

早速書き始めました。いつも出だしから躓くので、さっと書き始められるのは気持ち良いです。

付箋の意味ですが、FigmaコンポーネントをAmplify Studioに取り込みする際に整合性エラーが発生すると人力で総点検するというペナルティがあるため、これを減らしたいというアイディアです。専門家が精魂込めて懇切丁寧に作りました、に価値のない部分なので、機械にやらせたいのです。

これを書いてみて、自作Figmaプラグインの詳しい動きを忘れていたことに気づき、動作確認してみることにしました。すると、端的に言うと実装したつもりはなかったけど既に実現できていたことがわかりました(まさかの、すごい)。

じゃあ終了でしょ?その通りです。仮説キャンバスを書いて分析するぞ!と思っていましたが、書くまでもありませんでした。「最初に確認しとけよ、もー」で次のことをやれば良いだけでした。

ですが、私たちは気づけば「Figmaプラグインに別の改修を施せないかな?」を考え始めていました。不思議です。このとき陥ったと思われる認知バイアスの罠は2つあると考えられます。

サンクコストの誤謬

プラグイン改修というアイディアを出すまでに、多くのコストを払っています。

  • 時間的なコスト
    • 前スプリントでチームでモブワークし、2つの課題と1つの実現手段を洗い出しており、ようやくこのスプリントで仮説キャンバスを使って分析するという段階でした
  • 心理的なコスト
    • また振り出しに戻って考えるの?またあれやるのか・・・

支払ったコスト回収しなければならないという心理が、やっても意味のない行動であるにも関わらず、影響を与えていたと考えられます。

アンカリング効果

私たちはFigmaプラグインの開発をしているのではなく、開発プロセスを爆速化したかったはずです。しかし、最初に浮かんだFigmaプラグイン改修という魅力的な(過去の成功体験に根差した)アイディアに「アンカー」が打ち込まれ、これに固執していた可能性があります。

2つ目の罠:誰も課題と思っていないのに何かやらねばという心理

プラグインに何かできないか?と頭を捻って考えたのがこちら。

これもAmplify Studio取り込み時に苦労しているものを直したいというものでした。「プラグイン」「取り込みエラー解消」こそ同じですが、先ほどとは全く違う機能になっています。

そして、未実装であるため安心して分析を進められる、とその時は考えました(そこは大事じゃなかったはずなのにね)。まずは、提案価値、顕在課題、状況だけを仮説キャンバスに書き出してみました。

よしよし、ようやく課題が出てきたから、この実現手段は実装する価値があるぞ、と思っていました。

しかし、ある開発者が「この作業には多少時間はかかるけど、それほどでもない」と発言しました。いやいやそうは言っても時間掛かるのならやる価値はあるよね?と思いながらも、じゃあ一番よく利用するデザイナーさんに聞いてみようとなり、聞いた結果はこちら。

そうです。誰一人として切実な課題だとは思っていなかった、でした。

この流れ自体は検討プロセス自体の狙い通りです。あったら良いけど切実な課題じゃなかったよね、が仮説キャンバスを書いて可視化し言語化できたことで、チームの共通認識が得られました。私たちは必要としないものをコストをかけて開発するところでした。(危なかった)

仮説キャンバスを書いて切実な課題を分析するのは極めて有用だな、と今になれば思えます。

しかし、この結論が出た当時は「これを開発するためには何をしたらいいのか?(=どんな言い訳が立てばこれを開発できるのか?)」という心理状態でした。

はい、ここで認知バイアスを一つ。

行動バイアス

今回は、何もしないことが最も正解な行動でした。このように行動(実装)してもより良い結果につながるという兆候が全くないにも関わらず、何もしないようりも行動することを好むという心理に陥っていた可能性があります。

夢から覚める

恐らく、私一人だけが止めることに抵抗していた気がします。自分でMiroに書き出した付箋をふと見ました。

「これは本当に切実な課題と言えるのか?」

夢から覚めた気分でした。
切実な課題であるかどうかを分析するために仮説キャンバスを書き、結果、この実現手段を実装しても大した助けにならないとチームメンバーは主張していたことをようやく理解しました。正確には理解していたはずですが、それ以上に、やらねばならぬという心理が優先されていたという方が正しいでしょうか。

分析結果よりも感情が優先されかけたことに、怖くなったというエピソードでした。どんな素晴らしいプロセスでも、「気分的にそうじゃない」で拒絶されたら意味がありません。台無しにするところでした。まずは分析した結果をきちんと受け入れて、心の奥底と折り合いをつけるしかありません

エピソード2:詐欺師の心理学

「「あなた特殊詐欺にあってますよ?」詐欺」です。劇場型でした。悔しいです。

きっかけは1本の電話から

機械応答

携帯電話会社XXXに対してあなたの支払いが2か月間ないため口座を凍結します。オペレータと繋ぐには9を押してください

直近で携帯電話会社から購入したものはありませんでした。必死に思い出すと、そういえば1か月前に口座残高が不足していたことが思い当たり、金額によっては引き落としできないかもと思い始めました。はい、これは確証バイアス」に陥っていた可能性ありますね。

このとき、自身の携帯電話会社と同じこと、自宅の固定電話にかけてきたということは、こちらを知っているはずだ、と無意識の内に考えました。ここでも認知バイアスの罠(これも確証バイアスと言って良い?)に陥っていますね。
おそらく、真実は、数打ち当たるで、私を特定した訳ではないのでしょう。そのための機械応答だと考えられます。

電話番号が「181」始まりなのも怪しかったのですが、機械応答ならそんなものかな?くらいの気持ちでした。

北米に知り合いがいないのなら「181」の電話は即切断です。折り返してはダメです。国際電話料金を請求されます。

この時、なぜか信じて「9」を押してしまいました。SMSやメールでくる詐欺メールなら余裕で無視するのに。どうやら電話攻撃は弱点属性だったようです。

オペレータ現る

オペレータ

どうされましたか?

たしか相手は名乗らなかったと思います。いま考えるとあり得ないですよね。

相手にはこちらの問題が伝わっていないようだったので、携帯電話会社XXXから電話があったことを伝えました。つまり、詐欺師に携帯電話会社XXX詐欺の件と伝わってしまいます。はい、劇団スタートです。

オペレータ

なるほど。免許証など個人情報を紛失されたりしたことはありませんか?
ネットで免許証をスキャンしたことがあるのですか。そこから流出した可能性があります。照会しますので、生年月日名前を教えてください。

こちらも混乱していたのではっきりと伝えられず、それでも順を追って聞き出してくれたように感じ、この時には謎の信頼感が生まれていました。そしてまんまと、生年月日と名前を電話口で伝えてしまいました(ぐぬぬ)

オペレータ

大阪の森ノ宮店で2023/MM/DDに携帯電話を購入し、255,356円が未払いとなっています。

は、大阪?「こちらは東京に住んでいますので大阪で購入する訳はありません。森ノ店?いったこともありませんよ」と東京都在住であることを伝えてしまいます。

オペレータ

落ち着いて聞いてください。XXさんは詐欺にあった可能性があります。被害届を警察に出していただく必要があります。
これから被害届に必要な情報をお伝えしますので、後ほど警察官に確実に伝えてください。手元にメモがございますか?

それでは読み上げます。

ファイルナンバー:NNN NNN
被害届:携帯電話本体および新規契約の申請
発生日:2023/MM/DD
携帯電話:080-XXXX-XXXX
申請者の名前:XXX XXX
契約者の住所:大阪府豊中市千成町X丁目X-X
請求金額:255,356円

よろしいですか?
では、これから警察の担当部署にお繋ぎしますので、必ず切らずにお待ちください。いまかけている電話にはコールバックできないようになっていますので、切ってしまいますと連絡できなくなります。

ええ、手元にメモしたので覚えていましたとも。(ぐぬぬ)

この時には、もはや被害届の出し方まで教えてくれる親切なオペレータに昇格していました。しかし、181の国際電話にコールバックしてはダメというところだけが、唯一の親切でした(コールバックしたら次の詐欺師に繋がらないから親切ではないけれど)。

なお、後ほど携帯電話番号、請求金額をネットで調べると類似の手口が載っていました。こんな設定のあまい奴らに引っかかるとは・・・(ぐぬぬ)

「ファイルナンバー」が警察との間で共有されていること、携帯電話会社から警察署に電話転送されること、など怪しさ満点でしたが、「よくあることなので、警察にも繋ぎやすくなっているのか」くらいにしか思っていませんでした。ファイルナンバーとか、詐欺手口の識別と個人の識別に使っているやつですよね、きっと(ぐぬぬ)

正常性バイアス」なのか「認知的不協和」からくる心理的な不快感を埋めるための幻想なのか、とにかく相手を正として、こちらの認知を改変していました。

警察に電話転送

自動応答

特殊詐欺には気をつけましょう🎵
特殊詐欺には気をつけましょう🎵

電話転送される時に、リピートメッセージが特殊詐欺に注意を連呼していました。(ぐぬぬ)
詐欺にかかったかも詐欺を成立させるアイテムの一つと感じます。

警察官現る

警察官

大阪府警本部特殊犯罪対策課のXXです。

本物の警察官が出たと思い込んでいました。つっかえながら事情を説明し、被害届の内容を説明しました。この時にはすっかり「権威バイアス」に取り憑かれていました。

警察官

今から大阪xxx署に来てください

「東京都XX区に住んでいるので、いけません。近くの交番ではダメですか?」と聞きました。

警察官

管轄が違うので難しいです。
ではLINEをお持ちですか?LINEとは(・・おじいちゃんに扱い!!!・・・)です。
そこでビデオ通話して被害届を出していただくことができます。

刑事物のドラマを見過ぎた弊害で、なるほどセクショナリズム、県警違うもんね?とか思い込んでしまいました、すみません。

そして、最初に大阪に来いからのLINEの落差、これは「ドア・イン・ザ・フェイス」のテクニックですね。まさに詐欺師の手法。

警察官

LINEでは「1対1応対方式」で行います。必ず1人でお願いします。他の人の影がみえるだけで証拠能力が不十分になります
LINEIDを教えていただけますか?

文字に起こしてみると、違和感だらけですね・・・

ここで手元にスマフォがなかったため取りに行き、緊張からかお腹が痛くなり、トイレにいく。そして、こが一旦立ち止まる効果を生むことになります。

警察官

このLINEIDですか。私のLINEで友達登録しますね。
この猫ちゃんのアイコンですか?
どうですか見えましたか?見えない?変ですね?
「あ」を送ればいいですか?いま送りました

ここで急に怪しいと思い始めした(遅
でも猫ちゃんはフレンドリーポイント高いです。うーん。なので、「うーん、見えませんね?」「「あ」を送ってください」で牛歩を開始しました。

夢から覚める

  • LINEで日本の警察が事情聴取する?そんなにハイテクな訳ない(できてたらごめんなさい)
  • 「私の」LINEとか言っている。私の?
  • お友達の名前は「大阪府警」。私=大阪府警さん??
  • 牛歩している間、受話器に耳を当てて周りの音を聞いてみると、何やら別の男の声が1つあり。警察ぽくない会話をしている。

「あ!あと3分で会議始まってしまうので後で掛け直してもいいですか?」と言ってみました。

実際のところ、DS始まって15分経ってました。すみません。

警察官(自称)

会議ですか、会議なら仕方ないですね。
ただ、掛け直すと被害届をもう一度・・・(もうあんまり聞いてなかった)・・・

会議を考慮してくれるのか!!と、ちょっと心が揺れました。しかし、「あと1分で会議始まるので、連絡先教えてもらえますか?」とカウントダウンしてみる。実際には17分前に(ry

警察官(自称)

電話番号は、06-XXXX-XXXX、間違えました06-YYYY-YYYYです。
LINEで必ず連絡してください。

「はい、わかりました」

いい直し後の電話番号はなんと、大阪府警察本部の生活安全部保安課でした。本物でした。またまた信じそうになりましたが、特殊犯罪対策課じゃありませんし、LINEはいくら何でもないです。

各地に聞いてみる

LINEをお友達登録せずにBlockし、色々な人に聞いてみました。

妻の証言

妻(本物)

何で怪しいってずっと言っているのに信じてくれないの!!
誕生日とか本名とか次々と伝えて、本当に何なの!!
漢字まで伝えるとか、普通はカナ登録だからその時点で怪しいでしょ!!
こっちのミーティング遅れたじゃない!!

ねぇ何でこっちのいうこと信じてくれないの?

いや、なんかオペレータの方が信頼感あってさ。なんかこっちが電話しているのに横からごちゃごちゃ言ってくるから五月蝿いと思ってたよ」きっと認知バイアスです。

このあと、むちゃくちゃ怒られたのは言うまでもありません。詐欺師のやろー

チームの証言

チームメンバー

ありえないよー
詐欺師からかって遊んでないで

遊んでたんじゃやなくて、遊ばれていたんですよね。ただ、口に出して人に伝えていると、有り得なさがよくわかります。やっぱりそうですよね。安心しました。

携帯電話会社XXXのお客様相談窓口の証言

  • 「ファイルナンバー」というものは存在しない
  • いきなり電話1本で口座凍結するような失礼なことはしない。
  • 警察に電話転送することはありません

最初、購入履歴があるかどうか照会してもらおうかと思いましたが、照会するための情報がないことに気づきました。電話番号は犯罪集団に使われているとネットに載っているし。聞くまでもありませんでした。

大阪府警察本部生活安全部保安課の証言

  • 「ファイルナンバー」というものは存在しない
  • 携帯電話会社から電話転送されることはありえない
  • 大阪府警に特殊犯罪対策課は存在しない
  • LINEで事情聴取することはありえない
  • 管轄が違うからと地元警察に相談できないということはありえない。犯罪に巻き込まれているかもしれませんから。
  • お金を振り込まなくて本当によかったです

すごく親切に答えてくれました。ご迷惑をおかけしました。権威バイアスとか書いてすみませんでした。誰よりも親切に回答いただきました。

ここでの教訓は、金輪際、固定電話にはでんわ、です。
・・・
ではなく、「いますぐやらないと損失しますよ」「まずい状況が起きていますよ」と焦らされて、普段ではしないことをやってしまう心理状態に気を付ける、です。しかし、認知バイアスに気づいていても避けることは難しいと「思考の穴」という本の作者自身も書いている通りで、専門家だって難しいのです。0にすることは無理だと思います。

まずは、とりあえず立ち止まって深呼吸してみる、から始めてみます。「深呼吸してステップバイステップで取り組もう」というやつですね。(実は俺ってAIでした説)

まとめ

以上、「それいいね!すぐやろう」の前にすること、でした。

「すぐやる、今やる」が美徳のような空気感の中で、立ち止まるというのは心理的な抵抗があるものです。けれど、立ち止まるということに報酬があるとわかったのなら、やってみてもよいはず、ならないかな〜と期待しています。

個人のBlogで書くような場違いな記事、すみませんでした(PVが2/日くらいしかないので、こっちの方がいいかなと・・・)。
こんなことを書いても許されるinsurtech研究所が素晴らしいところです。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました!

(夜中の勢いってあると思うのです。12/10に見て驚きました。でもポチッと公開です)