スクラムって何?【アジャイル開発の代表的フレームワーク】
前回の記事で、変化の激しい時代に対応するための「アジャイル開発」の基本的な考え方について学びました。アジャイル開発は、短いサイクルで開発とテストを繰り返し、変化に柔軟に対応しながらプロダクトを作り上げていく手法でしたね。
では、具体的にアジャイル開発をどう進めればいいのでしょうか?そこで登場するのが、「スクラム」です。スクラムは、アジャイル開発の理念を実現するための、最も普及しているフレームワークの一つです。
この記事では、スクラムの基本的な進め方から、主要な登場人物、そして重要なイベントや成果物まで、初心者にも分かりやすく解説します。これを読めば、スクラム開発の全体像がつかめるはずです。
スクラムとは?【ラグビーが由来のチームワーク】
「スクラム」という言葉は、実はラグビーの「スクラム」が由来です。ラグビーのスクラムが、チーム全員が連携してボールを前に進めるように、スクラム開発もまた、チーム一丸となってゴールを目指すことを重視します。
スクラムは、複雑なプロダクトを開発するためのフレームワークであり、**「経験的プロセス制御」**に基づいています。これは、事前に全てを計画するのではなく、実際にやってみて得られた経験から学び、適応していくことを意味します。この考え方は、アジャイルの価値観と密接に結びついています。
スクラムの3つの役割(登場人物)
スクラム開発には、主に3つの重要な役割があります。それぞれが明確な責任を持ち、協力し合うことでプロジェクトを進めます。
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プロダクトオーナー(Product Owner / PO)
プロダクトの「何を」「なぜ」作るのかに責任を持つ人です。
顧客やビジネスの代表者として、プロダクトのビジョンを明確にし、最も価値の高い機能を優先順位付けして、チームに伝えます。最終的なプロダクトの成功に責任を持ちます。
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スクラムマスター(Scrum Master / SM)
スクラムチームがスクラムのルール通りにスムーズに開発を進められるようサポートする人です。
チーム内の障害を取り除き、スクラムの原則やプラクティスが守られるようコーチングします。プロジェクトマネージャーとは異なり、進捗管理やメンバーへの指示は行いません。チームの「奉仕するリーダー」という役割です。
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開発チーム(Development Team / DT)
実際にプロダクトを「どのように」作るのかに責任を持つ、自己組織化されたチームです。
デザイナー、プログラマー、テスターなど、プロダクトを完成させるために必要なスキルを持った多様なメンバーで構成されます。3~9人程度の少人数が推奨され、自分たちでタスクを分担し、目標達成に向けて協力します。
スクラムの主要なイベント(会議)
スクラムでは、開発を円滑に進めるために、決まったタイミングで特定のイベント(会議)を行います。これらを「スクラムイベント」と呼びます。
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スプリント(Sprint)
スクラム開発の核となる、短期間の区切りです。通常1〜4週間で設定され、この期間内でプロダクトの一部を開発し、テストして、動く状態のインクリメント(成果物)を完成させます。
スプリントは固定された期間であり、この期間中に目標を変えることは基本的にありません。
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スプリントプランニング(Sprint Planning)
スプリントの開始時に行われるイベントです。開発チームが次のスプリントで「何を」「どのように」達成するかを計画します。
プロダクトオーナーはプロダクトバックログ(やりたいことのリスト)の中から、プロダクトの目標に最も貢献するアイテムを選びます。開発チームは、それらをスプリント内で完了できる量かを見積もり、具体的な作業計画を立てます。
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デイリースクラム(Daily Scrum / 朝会)
毎日、開発チーム内で行われる15分程度の短い進捗確認の会議です。
各メンバーが「昨日何をしたか」「今日何をするか」「何か障害はないか」を共有し、チーム内で情報を同期させます。問題解決の場ではなく、あくまで情報共有の場です。
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スプリントレビュー(Sprint Review)
スプリントの終了時に行われ、開発したプロダクトの「動く成果物」を関係者(ステークホルダー)にデモンストレーションするイベントです。
フィードバックを受け取り、次のスプリントやプロダクト全体の方向性を調整するための貴重な機会となります。
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スプリントレトロスペクティブ(Sprint Retrospective / 振り返り)
スプリントレビューの後に行われる、チームの「振り返り」の場です。
「このスプリントで何がうまくいったか」「何がうまくいかなかったか」「次にもっと良くするにはどうすればいいか」をチーム全員で話し合い、次のスプリントでの改善策を見つけ出します。スクラムにおける「継続的な改善」の要となるイベントです。
スクラムの主要な成果物
スクラムでは、開発を進める上で3つの主要な成果物(アーティファクト)があります。
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プロダクトバックログ(Product Backlog)
プロダクトに必要な機能や改善点、修正点などをリストアップしたものです。「やりたいことリスト」と考えると分かりやすいでしょう。
プロダクトオーナーが常に最新の状態に保ち、優先順位をつけます。プロダクトの進化とともに増減したり、順序が入れ替わったりします。
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スプリントバックログ(Sprint Backlog)
プロダクトバックログの中から、現在のスプリントで開発チームが達成すると約束した項目と、そのための作業計画を具体的に記したものです。
開発チームが自分たちで管理し、進捗を追います。
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インクリメント(Increment)
スプリントの最後に完成する、実際に動くプロダクトの一部です。顧客に価値を提供できる状態になっている必要があります。
これが積み重なることで、最終的なプロダクトが完成していきます。
まとめ:スクラムで「動くプロダクト」を素早く届ける
スクラムは、アジャイル開発の理念を具現化するための非常に強力なフレームワークです。
短いサイクル(スプリント)で開発とテストを繰り返し、チーム、プロダクトオーナー、スクラムマスターが密に連携し、透明性と継続的な改善を重視することで、変化に素早く適応しながら顧客に真に価値のあるプロダクトを届けることを目指します。
今回学んだスクラムの役割、イベント、成果物を理解すれば、アジャイル開発がより身近に感じられるはずです。ぜひ、あなたのプロジェクトでもスクラムの考え方を取り入れてみてください。
次回は、アジャイル開発と従来のウォーターフォール開発の具体的な違いについて、メリット・デメリットを交えてさらに深く掘り下げていきます。お楽しみに!