※本記事の情報は、令和6年9月30日現在のものです。
生命保険への加入を考えるうえで、一番難しいのはなんだと思いますか?
2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査によると、生命保険や個人年金保険に加入する場合に必要と考えられる知識の中で、不足していると思われるものとして、以下の回答が上がっていました。
調査によると上記の順位で回答が多かったですが、私の見解では、③が一番難しいんじゃないかと思います。
①は、何のリスクに備えれば良いのか分からない、ということでしょうか。確かに、リスクにはいろいろな種類があります。個人の心身に関連するリスクで考えても、死亡のリスク、長生きのリスク、病気やケガのリスク、介護のリスクなどが考えられます。
心身に注目すると、確かにさまざまなリスクが考えられるのですが、金銭に注目すると、実はいずれも家計へのリスクに一本化して考えられます。家計の収支バランスが悪化することで、家庭で設計していた生活が実現できなくなることが脅威であり、避けたいと考える対象です。①「どういった保障が必要なのか」という疑問については、生活設計の実現を脅かすリスクのうち、自助努力で備えきれないリスクに対する金銭的な保障が必要である、という回答が出せるだろうと思います。
なお、生活補償(保障)に必要な保険商品をすべて購入するとなれば、その保険料負担は相当家計を圧迫することになる。その結果、保険料の支払いに耐えられずに解約にいたり、保険商品を有効活用する機会を逸してしまう場合もある。したがって、保険商品の購入にあたっては、リスクに優先順位をつけ、必要の度合いの大きなものから補償(保障)の確保に努める心構えが必要である。
家計保険と消費者
なるほど、備えきれないリスクを洗い出して、必要な金銭的な保障を得られる保険に加入すれば良いのだと分かりました。しかし、まだ保険に加入するとなると不安ではありませんか?
- 死亡、長生き、病気やケガ、介護などのリスクが発生したら、家計の収支にどれだけの影響があるのか分からない。
- 家計の収支への影響を考慮して、十分な保障となる具体的な金額が分からない。
これが、不足している生命保険知識の③「加入金額がどのくらい必要なのか」に関連していそうです。自分で調べるのは難しいので、生活設計やリスクの理解については、専門家に相談するのが良いと思います。
死亡保険の加入金額の目安
ここでは、保険金の金額が最も大きくなるであろう死亡保険について、加入金額の目安を見てみます。
公共財団法人 生命保険文化センターのWebサイトに、生命保険の加入金額の目安は?というQ&Aのページがありました。必要保障額は家庭の状況によって様々なので、目安となる金額が示されてはいないのですが、一家の働き手が死亡した場合の必要保障額の考え方が紹介されています。そして、必要保障額の考え方をもとに、モデルケースを用いて保障額を算出した具体例がありました(万一に備えるための保障額の具体例は?)。
一家の働き手が死亡した場合に保障しておくべき金額は、想定される遺族の支出と収入の差額だと考えられます。
必要保障額 = 支出見込額 – 収入見込額
支出見込額は、特殊な事情がなければ、配偶者の生涯のスパンで考えます。末子独立までの生活費、末子独立後の配偶者の生活費、教育費、住居費、葬儀費用といった項目ごとに、遺族の生活をシミュレートしながら支出額を算出していきます。
(筆者は家計簿を付けていなかったので、ライフプランニングサービスを受けた際に戸惑いました。預貯金残高の推移などから、毎月の生活費を概算してみてはいかがでしょうか?)
収入見込額の大部分は、公的保障、配偶者の収入、現在の資産から成ります。公的保障の金額がどの程度なのかは、イメージしづらいかと思いますので、この後に紹介します。
このように、家計の支出と収入の金額を積み立てて計算することで、死亡保険の加入金額の妥当性を考慮することができますし、後に見直していくこともできるようになります。
令和3年12月28日に、金融庁が「保険会社向けの総合的な監督指針」を一部改正しました。その内容は、保険会社や保険募集人が顧客の意向把握をする際に、顧客がライフプランや公的保険制度を踏まえて保障の必要性を理解して契約内容を判断できるようにしているか、というものでした。このことからも、生命保険の加入検討において、必要保障額を計算することが重要であると伺えます。
II .保険監督上の評価項目
保険会社向けの総合的な監督指針 令和6年7月 | 金融庁
II -4 業務の適切性
II -4-2 保険募集管理態勢
II -4-2-2 保険契約の募集上の留意点
(3)法第294条の2関係(意向の把握・確認義務)
保険会社又は保険募集人は、法第294条の2の規定に基づき、顧客の意向を把握し、これに沿った保険契約の締結等の提案、当該保険契約の内容の説明及び保険契約の締結等に際して、顧客の意向と当該保険契約の内容が合致していることを顧客が確認する機会の提供を行っているか。
①意向把握・確認の方法
意向把握・確認の方法については、顧客が、自らのライフプランや公的保険制度等を踏まえ、自らの抱えるリスクやそれに応じた保障の必要性を適切に理解しつつ、その意向に保険契約の内容が対応しているかどうかを判断したうえで保険契約を締結するよう図っているか。そのために、公的年金の受取試算額などの公的保険制度についての情報提供を適切に行うなど、取り扱う商品や募集形態を踏まえ、保険会社又は保険募集人の創意工夫による方法で行っているか。
公的保障(遺族年金)の金額を計算する
あなたが死亡した場合、遺族は公的保障を受けられるでしょうか?
あなたを被保険者とした死亡保険の役割を果たしている公的保障は、公的年金の遺族給付です(遺族年金 | 日本年金機構)。国民年金、厚生年金の被保険者であれば、それぞれ遺族基礎年金、遺族厚生年金を請求できる可能性があります。詳しくは、被保険者の条件については受給要件を、請求できる遺族の条件については受給対象者を、それぞれご確認ください。
以下は、受給できる金額にフォーカスして考えていきます。
遺族基礎年金
遺族基礎年金は、受給できる金額の計算が簡単です。
子のある配偶者が受け取るとき
昭和31年4月2日以後生まれの方は、(816,000円+子の加算額)が受け取れます。
昭和31年4月1日以前生まれの方は、(813,700円+子の加算額)が受け取れます。
子が受け取るとき
次の金額を子の数で割った額が、1人あたりの額となります。
(816,000円+2人目以降の子の加算額)
- 1人目および2人目の子の加算額 各234,800円
- 3人目以降の子の加算額 各78,300円
なお、子とは18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方をさします。そのため、18歳を超える子が増えるにつれて、子の加算額は減っていき、最終的に遺族基礎年金は打ち切られます。給付される期間も考慮して、収入見込額を計算しましょう。
遺族厚生年金
遺族厚生年金の年金額は、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額となります。なお、厚生年金の被保険者期間が300月未満の場合は、300月とみなして計算します。
とはいえ、これだけだと分かりませんよね。まず、報酬比例部分とは何かを調べます。
報酬比例部分についての計算式を見ると、今度は平均標準報酬額を確認する必要があると分かります。マイナポータルからねんきんネットにログインすることで、これまでの年金記録から標準報酬月額と標準賞与額を確認することはできますが、計算するのはしんどいですね。
そこで、一般社団法人 公的保険アドバイザー協会が提唱している方法を参照しましょう。ねんきん定期便を活用することで、遺族厚生年金の金額を算出することができます(CHECK4 万が一の年金額 | 一般社団法人 公的保険アドバイザー協会)。ねんきん定期便には、厚生年金保険の加入期間(月)及び、これまでの加入期間に応じた老齢厚生年金の年金額(年額)が記載されています。この2つの値を使って、厚生年金の加入期間が300月未満であれば300月に換算して、4分の3を乗じることで、遺族厚生年金の金額を算出できます。
ねんきん定期便は届いたけれど、どこにしまったか忘れたという方、いらっしゃいますよね?安心してください、ねんきんネットから電子版をダウンロードすることができます。
遺族厚生年金も、受け取れる期間がありますので、受給対象者の条件をご確認ください。
また、遺族厚生年金を受け取るのが「妻」である場合、中高齢寡婦加算により612,000円の加算が受けられる場合があります。生計を同じくしている子がおらず、遺族基礎年金が受け取れない場合でも、遺族厚生年金の中高齢寡婦加算によって急な収入減少が抑えられます。
受給できる金額については以上です。
ちなみに、遺族基礎年金、遺族厚生年金のどちらも、税金はかかりません(No.1605 遺族の方に支給される公的年金等|国税庁)。収入の計算がしやすいですね。
ぜひ、生命保険の加入検討の際には、ライフプランニングの相談も併せてご検討ください!
不足している生命保険知識
以下、省略