“任せたつもり”がチームを止める?委ねるリーダーシップの落とし穴と実践知

 「もっと任せたい」と思いながら、つい口や手を出してしまう——そんな悩みを抱えるリーダーは少なくありません。特にアジャイルやスクラムでチームをリードするプロダクトオーナーにとって、「委ねる」ことはチームの成長と健全なプロダクト開発の鍵となる一方で、難しさも伴います。
 この記事では、私たちのプロダクト開発チームでの実践を通じて、「うまくいかなかった委ね方=アンチパターン」と「自律を引き出すために試したこと」を紹介します。

1.チーム紹介

 私たちのチームは、以下のメンバー構成でスクラム運営をしています。

 また、チーム外には以下のステークホルダーがいます。

  • 自社のプロダクト開発組織のマネージャ
  • ビジネス事業者側のステークホルダー(責任者、ユーザなど)

 このチームでは、新規プロダクトの検討を進めています。プロダクト開発に必要なスキル(事業ドメイン知識/コア技術に関する知識など)が少ないところからスタートするという不確実性が伴う環境で、チャレンジしてきています。
 スクラムを2025年3月から開始し、これまで現在までに15スプリントを運営してきました。
(1スプリント=1週間)。

2.なぜ、委ねる必要があるのか?

 スクラム開発では、「プロダクトの価値を最大化する」ことが目的とされます。そのためには、プロダクトを改善し顧客のフィードバックを得ることが必要であり、チームには課題と向き合って意思決定を迅速に行うことや、環境・状況に対して柔軟に対応することが求められると考えています。
 開発チームは、自立性が高い状態にしなければならないですし、一方でプロダクトオーナーには、開発チームに責任や役割を委譲できる関係性の構築や、戦略の準備が求められているのだと認識しています。

3.委ねるリーダーシップの失敗例

 では、早速委ねてみよう!ということで行動した訳ですが、まぁうまくいきません(笑)。理屈よりも、まずは私の経験した失敗例(アンチパターン)を共有したいと思います。

アンチパターン①:「任せたつもり」で管理し続けてしまう

私自身、初期の頃に次のような行動をとってしまっていました:

  • 「これはこの手順でやってね」とPBIの進め方まで細かく指示
  • タスクの進め方について「報告・確認」を前提にしている
  • プロダクトバックログは詳細に書くが、「なぜそれをやるのか」は細かく共有しない(聞かれた時に対応する)

結果として:

  • 「検討する・進め方の道筋を立てる」タスクがチーム単独では進まない
  • デイリースクラムが、プロダクトオーナーに対する”進捗共有”の場になる
  • プロダクトバックログが完成した際に、受入条件を満たしていても、1つずつレビューをする
  • ゴール達成できないなどの課題発生時の対処が、プロダクトオーナー任せになった(解決策の案が出ない)

これはまさに「任せたつもり」の状態で、責任と裁量のバランスが取れていなかったことに気づきました。

🔍 アンチパターンのチェックリスト

チームの状態を確認してみよう!

  • チーム内から「こうした方が良くないですか?」という提案が出ない
  • プロダクトオーナーに逐一確認するのが習慣化している
  • スプリントゴールが「タスク消化目標」になっている

アンチパターン②:「何でも自由にしていいよ」と丸投げする

逆に、責任も目的も不明確なまま「委ねた」気になってしまうケースもありました。

ゴールは緩やかに意見しつつ、具体的なPBIや受入条件の設定を全てチームに任せたところ、次のような問題が起きました:

  • スプリントのゴール状態に関する共通理解がなく、タスク完了を目指して進行した
  • 「やる」「やらない」の判断が揺れ、PBIでやることが膨れ上がった
  • ゴールに到達しない/リカバリーする方法がとにかく作ることになった
  • 後から「それは想定と違う」と私がリカバリーすることで、揉める原因になった

 この経験から学んだのは、「委ねる」と「放任」は違う、ということでした。自律的なチームならこれができるべきなのでは?という期待を持っていたと思います。しかし、それはチームメンバーとの協業を前提としていない、浅はかな考えであることがわかりました。
 これはプロダクトオーナーだけでなく、スクラムマスターと開発メンバーの間でも、同様の状態になっている状況がよくあると思います。

🔍 アンチパターンのチェックリスト

チームの状態を確認してみよう!

  • ゴールや受け入れ条件をチームが言語化できない
  • プロダクトオーナーが「想定していた成果と違う」と感じることが多い
  • チーム内でタスクを消化することが最優先になっている(タスクの変更・取捨選択の議論が巻き起こらない)

4 .なぜこのような行動をしてしまうか?

 これは私がこれまでSI開発・ウォーターフォール開発をする中で経験したことに基づく、心理的な障壁や、物事の優先順位の癖が原因だと思います。
 問いに一言で答えるとするならば、「自分やチームを守る(失敗を避ける)ことに意識が向き、プロダクトや顧客に対するゴールに集中していないから」でしょうか。

思考・行動傾向として:

  • トップダウン型の意思決定文化(決める人と、受け止める人しかいない)
  • リスク回避の行動傾向
  • 正解・成功への過度な依存(成功しなければ、何もできない人と見なされる)
  • 管理職・リーダーロールの責任感の大きさ

 なんだかシゴデキ感が漂いますが・・・。そうではなく、過去の失敗や大変だった経験などから、自分やチームを守りたいと思った際に発動してしまうイメージです。特に、チームのスキル未充足な状況や、不確実性が高いゴールを顧客に対してコミットする際にこのような思考に陥ることがあります。

 しかし、この思考を避けようとして、意思決定やリスクコントロールの責任ごと全てをチームに任せ切ってしまうと、また失敗に至ってしまうという訳です。

5.自律性を引き出すために試したこと

これらの失敗を経て、次のアクションを実施しました:

✅ 目的・ゴール・受け入れ条件を明確にする(≠細かく管理する)
✅ プロセスや進め方はチームに任せ、私は目的や受け入れ条件とのアラインに注目して「問いを投げる役割」に回る
✅ ステークホルダーとの対話の場に同席を促し、得たフィードバックに対してチームでどう受け取るかを考えることで、次のゴール設定や意思決定に繋げる

この切り替えによって、少しの変化が見え始めました:

  • プロダクトバックログの受け入れ条件について、メンバーから「これって◯◯でOK?」という質問が出始めた
  • スプリントゴールの達成が難しいと分かったとき、私の指示を待たず、「何をやめて、何に集中するか?」をチームで話し合い始めた

 これらは、単に作業を任せたのではなく、「目的に向かって考える責任」をチームで担っていると感じる出来事でした。
 しかし、その変化にチーム(私も含め)が慣れてしまった時に、徐々に前の状態に戻るような動きが起こります。これは、それぞれが持っている従来の価値観や、コンフォートゾーンに引き戻されるようなことなのだと感じています。

 そのため、常に未完全な状態であることを受け入れて、チームに対する実験や観察を繰り返して、状態を意図的に変えながら前に進むべきなのだろうと考えています。

6.おわりに:「目的と裁量のセットで委譲する」「自分を含めて意図的な変化を実験する」

 アンチパターンを経験して分かったのは、「任せる」と「考えなくていいように整えること」は別物だということです。「目的を示し、やり方は委ねる」「問いを投げ、意思決定を促す」ことが大切だと気づきました。
 また、自分を含めチームのメンバーは、これまでの経験に基づく価値観があり、簡単には変化し得ないことも分かりました。そのため、継続的に変化を引き起こす実験をしていきたいと思います。

 ぜひあなたのチームでも、「委ね方の見直し」をしてみてください。ご覧いただき、ありがとうございました。