スクラムパターン読み合わせ会のススメ:仲間と読み解く実践知の深み

「パターンを読むだけで、こんなに話が深まるとは思わなかった」

スクラムを実践していると、「このやり方でいいのだろうか」「なんとなくモヤモヤするけれど、何がズレているのか説明しにくい」といった感覚にたびたび出会います。そんな“腹落ちしない瞬間”にこそ、活きる知見があります。それが「スクラムパターン」です。

私は現在、チームで定期的に「スクラムパターン」の読み合わせ会を実施しています。この記事では、その実践の様子と、参加者として・ファシリテーターとして感じた気づき、また印象に残ったパターンを紹介しながら、「スクラムパターンの読み合わせ」がいかに実践と結びついた気づきをもたらすかをご紹介します。

スクラムパターンとは?なぜ読むのか

「スクラムパターン」とは、スクラムに関する成功事例や失敗例から得られた再利用可能な知見を“パターン”という形式で記述したものです。公式にはScrumPLoPに多数掲載されており、自己組織化・透明性・ふりかえりなど、スクラムの根幹を支える実践要素が整理されています。

ただし、英語原文で記載されており、日本人にとっては少しとっつきにくいのが正直なところ。それでも、Webブラウザの翻訳機能を使えば意外と読める内容であり、1パターンあたりの分量もそれほど多くありません。チームで1回の読み合わせに1パターンを扱えば、だいたい1時間以内で区切りがつくため、継続的な取り組みがしやすいです。

読み合わせ会の開催スタイルと変遷

私たちのチームでは、毎週火曜日に開催しているOST(Open Space Technology)形式の1時間枠の中で、定例テーマのひとつとしてスクラムパターンの読み合わせ会を実施しています。

読み合わせ会は、スクラムパターンを上から順番に選び、1パターンを20分で読んで、Miroボードに感想を付箋で貼り、参加者で共有するという形式で始まりました。当初は7割ほどのメンバーが参加し、活発に感想が飛び交う充実した場でした。

しかし5回目を過ぎたあたりから、参加者が固定化し、付箋も2人ほどしか投稿されなくなりました。理由を聞いてみると「翻訳しながら読むには時間が足りない」「内容が難しくて意見が出せない」といった声が出てきました。

そこで改善として、事前にGoogle翻訳した日本語訳をMiroボードに貼り付け、全員が同じ訳文を読んで意見を出せるようにしました。これにより少しずつ付箋の数も増え、読み合わせが“共通の話題を持つ対話の場”へと再び進化しました。参考として実際に感想を出し合った「Testable Improvements」のスクラムパターンの翻訳版を付けます。

印象に残ったパターン:Testable Improvements

読み合わせを続ける中で、特に心に残ったのが上記にイメージをつけている「Testable Improvements」です。一見、ソフトウェアの品質を向上させるテストの話かと思いきや、実は“チームの働き方そのものを検査・適応可能にする”という深い内容でした。

このパターンにあった次の一文が印象的です。

“It’s an evil form of the old adage that you will get the results for which you measure, and the fault lies in measuring results alone.”

https://sites.google.com/a/scrumplop.org/published-patterns/retrospective-pattern-language/testable-improvements

「測定する結果が得られる」という古い格言の悪質な形であり、問題は結果だけを測定することにある。スクラムマスターとしてチームを良くしていくために改善をしたいなら、自分が「何を測定したいのか」「どんな変化を起こしたいのか」を明確にして、行動→観察→ふりかえりの実験サイクルを回す際に起きた事実だけを振り返るのではなく、結果に至った根本原因が何なのかを深掘りしないと次の実験が必要が意味のない改善もどきになってしまうと痛感しました。

Testable Improvementsの読み合わせ会で出た感想付箋

以来、私はスクラムマスターとしての自分の仮説を言語化し、「なぜ今これを試すのか?」をチームに丁寧に説明するようになりました。ただの試行錯誤ではなく、「実験」だと捉えることで、学びと改善の質が変わっていったと感じています。

苦戦したパターン:Conway’s Law

逆に難しかったのが「Conway’s Law」です。「組織の構造はそのままソフトウェアの構造に現れる」という内容は知っていましたが、実際にパターンとして読むと非常に抽象的で、チーム内でも「読んでも全く理解できなかった」という正直な声が続出しました。

Conway’s Law(コンウェイの法則)の読み合わせ会で出た感想付箋例
ChatGPTに3行で要約してもらったり、腹落ちするために色々努力したけど難しい内容でした

私なりの解釈としては、「市場の変化に対応できるプロダクトを作るには、変化を受け入れられる組織構造・チームの在り方が必要だ」という意味だと捉えましたが、チーム内で「なるほど」とはなりませんでした。

このような「読んでもわからない」が可視化されたのは、むしろ読み合わせ会だからこそ。今後はこのパターンをもう一段深掘りするために、解説記事や動画などの補助コンテンツも活用していくつもりです。

読み合わせ会を通じて得られること

この活動を続けてみて、強く感じていることがあります。それは、スクラムの“原則的な知識”が、読み合わせを通じて“自分たちの言葉”になる瞬間の面白さです。

  • わからないことがわかった
  • 他人の視点に気づけた
  • パターンを自分の実験のヒントにできた

こうした学びが毎回生まれることで、スクラムにおける「自己組織化」「透明性」「検査と適応」といった基本原則を、形だけでなく“感覚として理解する”ことに近づいている気がします。

最後に:地道な学びがチームを変える

スクラムパターンは、ただ読むだけではなく「咀嚼する」「誰かと語る」ことで本領を発揮します。派手ではないけれど、地に足のついた学び方。読み合わせ会を通じて、少しずつですがチームが「対話する文化」へと進化してきているように感じています。

この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ1パターンから、仲間と読み解いてみてください。きっと、そこには新しい発見があります。