メタバース(Roblox)上で保険のゲームを作ってみた

メタバースは今後のインターネットの発展の方向として大いに期待されており、InsurTech Lab. としても、保険と掛け合わせる技術として着目している。今回、その走りとして「保険の意義を学ぶことができるゲーム」を作成してみたため、その内容を紹介するとともに、その作成を経てわかったことを記載する。

メタバース(Roblox)とは?

メタバースはMeta 社(旧 Facebook社)の社名変更の話題性で急激に流行った単語である。メタバースとは何か、というのは、実は厳密な定義が未だにない。本記事で意図しているのは

「オンライン上の仮想的な空間があって、そこに人が集まって交流(コミュニケーション)できるもの」

という意味合いである。

文献を探ると、あるものでは「メタバースにはVRのような没入感が必須だ」という主張もあれば、「経済性(クリエイターがメタバース内で対価を得られること)がなければならない」という主張があるなど、現状多種多様である。ただ、こういった「定義」については、マシュー・ボール氏の定義(永続的に存在する、リアルタイム性がある、同時参加人数に制限がない、経済性がある、体験に垣根がない、相互運用性を持つ、幅広い企業・個人が貢献できる)が引用されることが多いようだ。本記事では、概ね氏のこの定義をイメージしつつ、簡略化して捉えている。

Roblox はアメリカのRoblox 社が提供する「ゲームプラットフォーム」であり、特に子どもたちに非常に人気がある(アクティブユーザー数で言えば日本でも人気のMinecraft よりも多いとのこと)。ここで、Roblox 自体はゲームではなく、興味のある開発者が自由にゲームを作成し、公開することができるプラットフォームであるという点に注意されたい。わかりやすく、少し乱暴に表現してしまうと、Roblox は「オンラインゲームを簡単に作成して公開することができるサービス」である。

なぜRoblox がメタバースの1つとして扱われるのかというと、そこで構築されるゲームというのが、以下のような特徴を持つためだ:

  • オンライン上に構築された
  • 仮想的な空間の中で
  • プレイヤーが自由に出入りし
  • 交流(チャットやゲーム)ができる

こういった要素を見てみると、Roblox とは「ゲームプラットフォーム」であると同時に「メタバースプラットフォーム」でもあるわけである。

メタバースは、オンラインゲーム(特にMMO RPG と呼ばれるもの)の延長線上でイメージすると認識しやすい。イコールではないが、「一つの仮想空間上に」「複数の人が集まり」「コミュニケーションを取りながら」「(ゲーム内限定とは言え)経済活動が生じる」など、メタバースの考え方はオンラインゲームを参考に整理されている側面があるためだ。

保険×メタバース=ゲーム?

InsurTech Lab. では、保険とメタバースを掛け合わせた一つの形が「保険というものを学べるゲーム」であると考えた。

「保険」というのは、その性質上、多くの人にとって、いつ、どの程度役に立つものなのかが実感し難いものである。なにせ、それを実感するためには意図的に不慮の自体に遭遇しなければいけない。できるわけもないし、できてもやりたいわけがない(そして、もしやったとしたらそれは詐欺である)。

さらに保険には金融商品としての側面もあるため、「どういうものなのだろう?」という疑問を持っても「こうだ」という回答が得づらい(どうしても複雑さがついて回る)。割り切って非常にざっくりとした説明に止めれば理解しやすいかもしれないが、恐らく「実感」はどんどん得にくくなる。

そこで、ゲーミフィケーションという発想で、保険を「体験」することを考えた。つまり、メタバース上で、擬似的に保険を体験できるゲームを作ってみたらどうだろう、と考えたのである。重要なのは「保険の仕組み」などを詳細に伝えるのではなく、「ああ、保険ってこういうときに役に立つものか」ということを体感してもらうことである。

RunWithInsurance

今回InsurTech Lab. で作成したゲーム RunWithInsurance はRoblox 上で公開されており、誰でも体験することができる。

ゲームは このリンク をクリックすることで体験することができる。(ただし、何分、ゲームづくりの素人が作ったものであるため、微笑ましい出来であることはご容赦頂きたい。)

上記リンクをクリックするとRoblox のゲームページに遷移する。そこで再生ボタンを押せばプレイできる。

もしまだRoblox を実行したことがない場合、Roblox へのユーザ登録、及びRoblox Player のインストールなどが必要になる。

このゲームの特徴は以下の通りである

スタートからゴールまで走り抜けるアクションゲーム

このゲームでは、STARTと書かれた場所からGOALと書かれた場所まで走り抜けるゲームである。途中で落下してしまったり、タイムアップしてしまうとやり直しになる。

図1.作成したゲームのプレイ中の画面

「資産」を集めつつ「寿命」を残して、高得点を狙うのが目的

コース上には「お金」がたくさん落ちている。これを集め「資産」を多くしていくことで高得点になる。しかし、あまりにうろちょろしてしまうと「寿命」がどんどん減っていく。寿命も残しつつ、効率よくアイテムを拾っていくことが求められる。

図2.ゲーム中に登場する「お金」アイテム

プレイヤーを妨害する「ゲート」と、それを助ける「保険」

お金と同様、コース上には「ゲート」が幾つか存在している。黄色のゲートはプレイヤーに「怪我」を追わせることで、また赤色のゲートはプレイヤーを「病気」にしてしまうことで、それぞれおプレイヤーの「資産」を減らしてしまう。

図3.黄色のゲート。そのままくぐると資産が減る

このゲートの手前には、必ず「保険」となるアイテムが配置されている。

図4.保険アイテム。ゲートと対応した色のものを取得する必要がある

その配置の仕方は幾つかのパターンが有り、以下のような挙動をする:

  • ゲートと同じ色の「保険」アイテムを取らなければいけない。もし違う色を撮った場合、ゲートによって資産が減少してしまう。
  • ゲートの手前にある「保険」は、各色1つずつであり、一方を取得してしまうと他方は消えてしまう

「保険」を体験できる

「保険」という(ある意味露骨な)名称で察せられる通り、このゲームでは「保険」をちゃんと適切に利用しないと高得点が取れないようになっている。これは、現実の保険における「悪いことが起きたとき」「その悪いことが補償される」という働きだけを抽出したギミックになっている。

前述の通り、ポイントは、保険という複雑な話ではなく、この重要なポイントのみにエッセンスを絞り、体験できるようにしたということである。

ゲームづくりを通してわかったこと

本記事の最後として、今回ゲームを作成してみてわかったことを幾つか述べる。

「保険」がゲームのギミックとしてうまく働くこと

前述したように、保険というのは、抽象化してしまうと「何か悪いことが起きたときに」「ある範囲内で損失が補填される」仕組みであると言える。今回、その「何か悪いこと」が現実では体験しづらい(したくない)ことを踏まえてゲームという世界を利用したのだが、ゲーム内のギミックとして「保険」というのが想像以上にうまく働くことがわかった。

考えてみると、既存のゲームでも似たような仕組みがあることは多い。そうでなくても、例えばゲームをプレイ中に、念のためやっておく対応を「保険」などと言うことはままあることだ(それが適切な表現家はさておき)。そう考えると、「ゲーミフィケーションを利用して保険を学ぶ」というのは決して無理のある話ではない。

今回は、あくまで悪い出来事が「資産(スコア)の減少」という程度に留めているが、例えばキャラクターの振る舞い(走りにくくなるなど)に反映させる、と言った形で、もっと踏み込んだイメージアップにも使える可能性がある。

ゲーミフィケーションとしてのバランスの難しさ

ゲームという体験を通じて学びを得る、というのは非常に難しい。実際、多くの人が体験したことがあるように、ゲームとしてみると「白けてしまう」ような要素として学びが入っていたり、学びの側面が強くてゲームとして面白みに欠ける、というケースは多いと思われる。

今回作成したゲームも同様で、「保険」の働きがうまくギミックとしてハマっているが故に、説明文などの「保険」という単語が浮いてしまっている点は否めない。

また、それ以外にも、ゲームとして追求しすぎると「学びが歪んでしまう」という問題もある。今回のゲームは「高得点を得ること」をゲーム内の目的として設定している。ここだけを考えると、保険のアイテムを上手く取ればゲート通過時に逆に得点が得られる、などの仕組みも考えられた。今回は、しかしそういうことはしていない。

なぜかと言えば、それを現実に置き換えてみると「保険を(悪い意味で)活用して焼け太りしよう」という話になってしまうからだ。結果的に失ったものよりも補填されたもののほうが多いというケースはありえることで、それ自体が悪いわけではない。ただ、「意図して」そいういうことをしよう、という方向で学びを得てしまうのは、どう考えても歪な学びである。

前節で述べたように「保険」という考えから来るギミックはゲームと(想像以上に)相性が良い。そのせいで、ゲームとしては色んな要素を追求しやすい(ゲーミフィケーションの題材として扱いやすい)一方で、下手をするとおかしな結果を生みかねない。

ここは、「学んでほしいこと」をちゃんと学べるようになっているかどうかとともに、「こんな歪んだ学びになっていないか」という観点での設計・検証が必要だとわかった。

求められるスキルセットが違いすぎること

前述の通り、今回ゲームを作成したのはゲームづくりの素人である。

今回ゲームづくりに求められた技能は、単純なプログラミング(ゲーム内での色んな仕掛けのロジックを組み上げること)もそうであるが、それ以外にも様々な要素が求められた。

その中でも特に頭を抱えたのが、ゲーム内の空間づくりである。Roblox というゲームプラットフォームを利用しているのでかなりの部分を補ってくれはするが、それでも

  • ゲームのコースをどうやって作るのか。単なる板切れで良いのか、凝った物にするのか。凝ったものを、ではどうやって作るのか。
  • コース上に配置するアイテムやゲートをどのように作るのか。単なる立方体や球体で妥協してしまうのか。作るとしたらどうやって作るのか。
  • プレイヤーに遊び方を伝えるにはどうしたらよいのか。立て看板か。ガイダンス用のUIを作るのか。どっちがより見やすいのか。それらはどうやって作るのか。

というように、次から次へと問題は出てきた。

こういった様々な問題の原因(課題)は幾つもあるが、今回強く認識ししたのは「お絵描きするスキルがないこと」である。

ここでいうお絵かきとは、美術としてのではなく、いわゆるスケッチやデッサンという話である。例えばコースを設計しようとすると「奥行きのある絵が書けない」状態では設計もできなければそれを共有もできない。あるいは、なにか新しいアイテムやオブジェクトを作ろうとしても、雰囲気だけでも伝わるような「抽象化した絵が書けない」ので誰かにヘルプを求めることすらできない。

実際のところ、今回のゲーム作成では、アイテムやフィールド上のパーツなどは既存のものをRoblox 上から拝借し(様々な開発者がこうかいしてくれている)利用している。コースの設計などは、明らかにパースの狂った下手くそな絵でどうにかしのいだ。どちらも、今回の規模であったから収まったが、いずれ破綻することは目に見えていることである。

今後、メタバースが普通になっていったとき、3D空間を作るというのは必ず生じるだろう。恐らくツールも今以上に充実してくるのだろうが、そうであっても、「頭で思い描いているものを絵としてアウトプットするスキル」はどうしても必要になるだろうと考えられる。スケッチを描くスキルは、もしかしたらプログラミングと同じくらいに重要なスキルになっていくのかもしれない。